長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

考えることができる―人間の知性について(レジュメ)

はじめに:この講座の目的について

 

 一。人間は、なぜ人間となったのか

 1。私たちの祖先をたどると

  ◇ヒトとチンパンジーは、600万~700万年前に共通の祖先から分かれた

   *二足歩行の開始→自由になった前足が「手」になっていく。

   *この「手」の獲得は、決定的に重要なポイント

   *人類は、いくつもの種があったが、最終的に地球上に生き残ったのは、
ホモ属サピエンス種だけ。

   *人類の進化は、大きくいって、猿人→原人→新人(ホモサピエンス)の順

   *猿人は、600万年~700万年前に、原人も250万年前にアフリカで誕生

*ホモサピエンス(賢い人)は20万年ほど前に、これもアフリカで誕生。

 

 

  ◇ホモ・サピエンスとは、「賢い人」という意味

   *圧倒的な“頭脳”が、生き残りを可能にした(『Newton』2010年12月号)

    ・高度な抽象化の能力(概念を自在にあやつる)

    ・会話や読み書きの力

    ・目の前の課題を克服する「問題解決能力」(推論力)

    ・相手の立場や考えを察する力―他者への共感力。感情への共感。

 

 

2。「労働」が、人間らしさを育てた

◇労働とは、人間が道具をつかい、自然や対象に働きかける行為

   *人間が生きていくための環境をつくり、ととのえる

 

◇手を獲得することで、道具をつくり、扱うことができた

  *石器、器、縄、衣類、食料を得るための道具や武器……

   →道具は、世代をこえて伝承・発展し、多種多様に、より改良をとげていく

   →自然にたいする力がだんだんと大きくなる(生産力の発展)
   
*道具が精巧になると、手もだんだんと器用になっていく。
    手の神経が発達していくと、それが脳の発達を促すようになる。
    手は外部探索の感覚器官でもある。手と脳の相互関係。

       *火の獲得→やわらかいものを食べられるようになり、口腔がひろがり、
    有節音を操れるようになっていく。言語の獲得。

 

  ◇労働の社会性・・・人間はひとりでは弱い

 

 

 ◇言語獲得の必要性は、協同労働から

  *労働のさいの協同・合図・計画・相談・総括・教訓化

  *思考力・抽象力・類推力・判断力の飛躍。法則性の認識。
      
*やがて文字の発明へ(経験・技術・文化の世代をこえた蓄積)。
        知識・技術の飛躍。

 

  ◇動物の「進化」と、人間の「進歩」

   *動物は、環境に順応して、自らの体を変化させていく

   *人間は、環境に順応しつつも、環境のほうを目的意識的に整え、変えていく。

    ・生き方を選択する力

 

 

二。人間の「知性」について

 1。ひらたく言えば、「考える力がある」ということ

  ◇人間だけが、考えることができる

   *人間の知性は、感覚器官をとおして知覚した対象を記憶し、これをもとに
整理・分析・想像し、また言語によって一般化し、抽象化してとらえる働き。

   *五感を通して得た情報を脳の働きによって「まとめ」「整理し」「考える」

   *考える道具としての「言語」

    ・考える力は、どのような言葉を持っているか(使いこなせるか)と比例する

    ・手話、点字なども、言葉のやりとり。

    ・判断・推測・比較・分析・総合・推理、想像・・・などの「考える力」は、

    すべて言語によって支えられている。

    ・豊かなことばを獲得できると、豊かにものごとを考えるベースになる。

 

  ◇一般化(抽象化)、概念(カテゴリー)、法則性の認識

   *「一般化」とは、たくさんの個別のものにふくまれている偶然的な、
非本質的な特徴、性質を捨象して(捨て去って)、それらにふくま
れている共通の、本質的な特徴、性質を抽象する(ひきだす)こと。
一般化ということを行なってこそ、個別のより深い認識も可能になる。

     →「タマ」「クロ」「ミケ」・・・「猫」

     →「いわし」「さんま」「かつお」・・・「魚」

 

   *対象の本質にせまるために必要なものが「概念(カテゴリー)」

    ・概念を定義し、法則性を認識する

    ・人間は、知性の働きによって法則性を認識し、理論をつくり出し、
この理論によって対象の構造や運動の法則を解明する。

    ・法則性の認識によって、世界の本質をとらえることができる

    ・たとえば社会科学に関するものだと・・・「労働者」「商品」「資本」etc

 

  ◇知性の性質と側面

 

      「知性はものを客観視したうえでの理論的な分析の能力であり、
したがって直接的には没価値的な現象理解、事実を事実として
はっきりさせるという力」

 

      「それは純粋な知識としての『知識』の能力であって、それがそ
のままで『知恵』であるわけではありません。いうならば、この知
恵のことを理性と考えてもよいのです。知性にはどうしてもそれ
だけとしては一面性、断片性、抽象性がつきまとい、分析と区
別の立場が主となるのですが、これに反して理性は全体的な
統一と総合の能力であり、いいかえれば『精神』の力のことです。
もっというならば、『理想』をたてる力、この理想へむけて現実を
ととのえ、導いていく力といってもよいでしょう」

              (真下信一『学問・思想・人間』青木書店、1974年)

 

 

 2。人間的理性をともなわない「知性」が膨張・暴走するとき

  ◇マンハッタン計画

   *1939年・ウラン原子の核分裂反応の発見

   *ナチスドイツは、早々に原子爆弾の開発に乗り出す

   *アメリカが原爆を製造することを正式に決定したのは1941年10月

   *1942年8月に、アメリカの原爆開発を専門的に担当する事務所が
マンハッタンに置かれた。「マンハッタン計画」と呼ばれるこの計
画には、当時の金額にして20億ドル以上の金と、12万5千人近い
人員が投入された。多くの科学者がこの計画に参加した。

   *1945年4月末にナチスドイツは降伏。この時点で、アメリカの原爆は
まだ完成していなかった。しかし、原爆開発の作業は続行された。
 

      「私は、原爆の完成を目前にして、世界で初めての原爆を作るのだ、
途中で止めることはできない、という思いが科学者たちの心を占め
ていたのではないかと考える」

      「『真理』と『倫理』のジレンマにおいて、真理を追究することを優先
したのであった。私は同じ科学者とてその気持ちがわからないで
もない。・・・問題がより困難であればあるほど、より熱意を注いで
解決したいと思うのが人間の常なのだ」            
             (池内了『禁断の科学』晶文社、2006年)

 

   *核廃棄物の処理という解決不可能な問題も残す

 

 

  ◇食べものと科学技術ー人口化学物質、遺伝子組み換え作物

   *殺虫剤、除菌剤、芳香剤、脱臭剤、着色料、化学添加物・・・

   *遺伝子組み換え作物の人体への影響、生態系への影響・・・

 

 

      「知性、その産物である技術は、本来人間にもっと人間らしい
生活をもたらすために存在すべきなのに、かえってその逆で
はないのか?」
(真下信一『学問・思想・人間』青木書店、1974年)

 

      「事実の確定と客観的分析の能力としての知性というものは、
ただ事柄そのものを事実として明らかにするだけで、その明
らかにされた事柄というか、これについては判断を控える。た
だ冷静に、主観性を離れて事物のあり方を問うということです。
・・・(略)知性をあたたかいものにするか、それとも冷たいもの
にするかは、知性そのものの力のうちにあるのではなくて、知
性そのものをはたらかせる、知性をこえた力のうちにあるの
です。・・・(略)科学・技術の能力である知性は、つねに理性に
よって貫かれているのでなければならない」(同上)

 

 

  ◇20世紀以降、科学の技術化までの時間が短くなり、「効率」「便利」
「楽に」「早く」「有用」という価値に重きがおかれ、「この技術がい
かに使われるべきか」ということを「望ましい社会」との関連づけて
とらえたり、社会的同意がなされないまま、科学技術がひとり歩き
している状況をつくりだしている。

 

 *たとえばIPS細胞の早期実用化とその及ぼす影響の議論

 

    「科学に従事する者は、単に科学の世界だけでなく、芸術や歴史
    や文学や政治にも親しみ、自分を大きな世界全体の中でとらえ、
    自分がなそうとしていることの意味を絶えず問い直すことが必要」

(池内了『科学の考え方・学び方』岩波ジュニア新書、1996年)

 

三。知性をめぐる階級闘争

 1。知性を「資本の論理」に従属させようとする問題

  ◇価値観をめぐる階級闘争

   *利益、効率、競争、倹約、・・・

   *生命、自由、人権、コミュニティ・・・

 

 2。「考える力」をコントロールしようとする(あるいは考えさせない)支配階級

  ◇ウソとゴマカシ、屁理屈で塗りたくられた社会

   *資本は、人間性と相容れない本質をもつ

   *労働者を資本に従属させるために

   *マスコミ、教育をつかった大規模かつ持続的な思想攻撃

 

  ◇事実を事実として認識できないようにしむける

*社会的バイアス(偏見・先入観)

   *資本の価値観、論理の浸透

    ・「自己責任」「国際競争力」「企業あっての労働者」「抑止力」「超高齢化社会」

     etc

 

  ◇長時間労働、余裕のない生活で、考えることを物理的に奪う

 

  ◇私たちを分断する、競争にかり立てる言葉・表現の氾濫(伝播)

   *投げつける(脅し)言葉、個別性を奪う言葉や行い、抽象的ごまかしの言葉

*いったい、なんでこんな言葉が広がった?

 

     「言葉の意味や概念を、歪めたり、誤魔化したり、間違った解釈で
     捻じ曲げたりする人たちのまやかしと、つねに正面から対峙しながら、
     言葉の正確な歴史的意味を明らかにしていく、日常的実践が必要な
     のです」(小森陽一)

 

 

 3。科学的社会主義理論の学習の意味-「理性」を豊かにするものとして

  ◇史的唯物論と弁証法的唯物論

   *歴史的にものごとをみること

   *偏見や独断、先入観でものごとを見ず、事実から出発すること

   *変化やつながりのなかで見ること

   *人間の本質、労働の本質、社会のしくみ

◇資本主義社会の運動法則と矛盾の解明

   →資本主義社会は人間性を奪おうとする(マルクスの「疎外論」)

   →たたかいのなかで鍛えられ、人間らしさ・生き方を豊かにする
労働者階級という存在

  ◇ぜんたいに貫かれるヒューマニズム(社会科学があって本物に)

 

   *私たちは、よりよく生きたいと思う。

   *そのよりよく生きることを阻んでいるものの正体を見定めること。

   *どのような社会をのぞむのか、そのためにどのような生き方を選択するのか。

   *科学的社会主義の理論は、そのことを考える材料を太く提供してくれる。

 

 

 4。知性・感情・意志・・・総体が生きる力をつくる

  ◇感情とは

   *私たちが感覚的に知覚し、知性によってとらえる事柄にたいする、
私たちの態度・体験。喜び、悲しみ、怒り、驚き、落胆、笑い、痛み・・・

   *感情を豊かにするのは、対象と自分とのかかわりが鮮明にとらえられ
得るような、対象にたいしての認識があるとき。感情は認識の無意識的な結論。

 

    ・夜空をみたときに、何を感じるか

    ・ものすごい希少種を発見したときに表れる感情

    ・映画『レ・ミゼラブル』をみたときに、何を感じるか

 

  ◇意志とは

   *目的と、その目的を達成するための具体的手段との統一から生まれる知性。 
   
*対象にたいする主体的態度の反映として生まれる感情と、相互に
    結びついている。

    *何かをやりとげようとする情熱は、対象についての深い認識と熱い感情との
    結合によってこそ生まれ、それらの深まりのなかで持続するもの。

 

    ・ダイエットの意志はどうやってつくられるか

    ・労働組合活動や平和運動などへの意欲・意志はどうつくられるか

    ・沖縄から米軍基地をなくしたいという意志

 

 ◇知性と感情と意志はバラバラでなく、深く結びついている

*「わかってはいるけれど、感情がともなわず、足が動かない」というのは…

     *他人事みたいな認識と、他人事みたいな感情と、他人事みたいな行動とが、
     みごとに統一されている。あいまいな認識とあいまいな実践との結びつき。

◇感覚的・部分的・固定的な認識から、理論的・弁証法的認識へ。

◇豊かな認識は、感性をみがく