2。「労働」が、人間らしさを育てた
◇労働とは、人間が道具をつかい、自然や対象に働きかける行為
*人間が生きていくための環境をつくり、ととのえる
◇手を獲得することで、道具をつくり、扱うことができた
*石器、器、縄、衣類、食料を得るための道具や武器……
→道具は、世代をこえて伝承・発展し、多種多様に、より改良をとげていく
→自然にたいする力がだんだんと大きくなる(生産力の発展)
*道具が精巧になると、手もだんだんと器用になっていく。
手の神経が発達していくと、それが脳の発達を促すようになる。
手は外部探索の感覚器官でもある。手と脳の相互関係。
*火の獲得→やわらかいものを食べられるようになり、口腔がひろがり、
有節音を操れるようになっていく。言語の獲得。
◇労働の社会性・・・人間はひとりでは弱い
◇言語獲得の必要性は、協同労働から
*労働のさいの協同・合図・計画・相談・総括・教訓化
*思考力・抽象力・類推力・判断力の飛躍。法則性の認識。
*やがて文字の発明へ(経験・技術・文化の世代をこえた蓄積)。
知識・技術の飛躍。
◇動物の「進化」と、人間の「進歩」
*動物は、環境に順応して、自らの体を変化させていく
*人間は、環境に順応しつつも、環境のほうを目的意識的に整え、変えていく。
二。人間の「知性」について
1。ひらたく言えば、「考える力がある」ということ
◇人間だけが、考えることができる
*人間の知性は、感覚器官をとおして知覚した対象を記憶し、これをもとに
整理・分析・想像し、また言語によって一般化し、抽象化してとらえる働き。
*五感を通して得た情報を脳の働きによって「まとめ」「整理し」「考える」
*考える道具としての「言語」
・考える力は、どのような言葉を持っているか(使いこなせるか)と比例する
・手話、点字なども、言葉のやりとり。
・判断・推測・比較・分析・総合・推理、想像・・・などの「考える力」は、
すべて言語によって支えられている。
・豊かなことばを獲得できると、豊かにものごとを考えるベースになる。
◇一般化(抽象化)、概念(カテゴリー)、法則性の認識
*「一般化」とは、たくさんの個別のものにふくまれている偶然的な、
非本質的な特徴、性質を捨象して(捨て去って)、それらにふくま
れている共通の、本質的な特徴、性質を抽象する(ひきだす)こと。
一般化ということを行なってこそ、個別のより深い認識も可能になる。
→「タマ」「クロ」「ミケ」・・・「猫」
→「いわし」「さんま」「かつお」・・・「魚」
*対象の本質にせまるために必要なものが「概念(カテゴリー)」
・概念を定義し、法則性を認識する
・人間は、知性の働きによって法則性を認識し、理論をつくり出し、
この理論によって対象の構造や運動の法則を解明する。
・法則性の認識によって、世界の本質をとらえることができる
・たとえば社会科学に関するものだと・・・「労働者」「商品」「資本」etc
◇知性の性質と側面
「知性はものを客観視したうえでの理論的な分析の能力であり、
したがって直接的には没価値的な現象理解、事実を事実として
はっきりさせるという力」
「それは純粋な知識としての『知識』の能力であって、それがそ
のままで『知恵』であるわけではありません。いうならば、この知
恵のことを理性と考えてもよいのです。知性にはどうしてもそれ
だけとしては一面性、断片性、抽象性がつきまとい、分析と区
別の立場が主となるのですが、これに反して理性は全体的な
統一と総合の能力であり、いいかえれば『精神』の力のことです。
もっというならば、『理想』をたてる力、この理想へむけて現実を
ととのえ、導いていく力といってもよいでしょう」
(真下信一『学問・思想・人間』青木書店、1974年)
2。人間的理性をともなわない「知性」が膨張・暴走するとき
◇マンハッタン計画
*1939年・ウラン原子の核分裂反応の発見
*ナチスドイツは、早々に原子爆弾の開発に乗り出す
*アメリカが原爆を製造することを正式に決定したのは1941年10月
*1942年8月に、アメリカの原爆開発を専門的に担当する事務所が
マンハッタンに置かれた。「マンハッタン計画」と呼ばれるこの計
画には、当時の金額にして20億ドル以上の金と、12万5千人近い
人員が投入された。多くの科学者がこの計画に参加した。
*1945年4月末にナチスドイツは降伏。この時点で、アメリカの原爆は
まだ完成していなかった。しかし、原爆開発の作業は続行された。
「私は、原爆の完成を目前にして、世界で初めての原爆を作るのだ、
途中で止めることはできない、という思いが科学者たちの心を占め
ていたのではないかと考える」
「『真理』と『倫理』のジレンマにおいて、真理を追究することを優先
したのであった。私は同じ科学者とてその気持ちがわからないで
もない。・・・問題がより困難であればあるほど、より熱意を注いで
解決したいと思うのが人間の常なのだ」
(池内了『禁断の科学』晶文社、2006年)
*核廃棄物の処理という解決不可能な問題も残す
◇食べものと科学技術ー人口化学物質、遺伝子組み換え作物
*殺虫剤、除菌剤、芳香剤、脱臭剤、着色料、化学添加物・・・
*遺伝子組み換え作物の人体への影響、生態系への影響・・・
「知性、その産物である技術は、本来人間にもっと人間らしい
生活をもたらすために存在すべきなのに、かえってその逆で
はないのか?」(真下信一『学問・思想・人間』青木書店、1974年)
「事実の確定と客観的分析の能力としての知性というものは、
ただ事柄そのものを事実として明らかにするだけで、その明
らかにされた事柄というか、これについては判断を控える。た
だ冷静に、主観性を離れて事物のあり方を問うということです。
・・・(略)知性をあたたかいものにするか、それとも冷たいもの
にするかは、知性そのものの力のうちにあるのではなくて、知
性そのものをはたらかせる、知性をこえた力のうちにあるの
です。・・・(略)科学・技術の能力である知性は、つねに理性に
よって貫かれているのでなければならない」(同上)
◇20世紀以降、科学の技術化までの時間が短くなり、「効率」「便利」
「楽に」「早く」「有用」という価値に重きがおかれ、「この技術がい
かに使われるべきか」ということを「望ましい社会」との関連づけて
とらえたり、社会的同意がなされないまま、科学技術がひとり歩き
している状況をつくりだしている。
*たとえばIPS細胞の早期実用化とその及ぼす影響の議論
4。知性・感情・意志・・・総体が生きる力をつくる
◇感情とは