長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

人間論講座2回目―人間と労働について

先週金曜日(22日)の科学的社会主義の人間論講座は

7名の参加でした。

「働くことの意味と矛盾―人間と労働について」がテーマ。

 

「疎外論」がすごく印象に残ったようでした。

 

今後も、整理し、深めていきたいテーマです。

 

 

以下、講義のレジュメです。

 

 

はじめに:働くことの意味は多様になっているが

     本質を理解することによって、現象への認識が高まる

 

 

一。労働とはそもそも(前回のふりかえりもかねて)

1。人間社会を成り立たせている

  ◇人間が生きていくために必要なものをつくりだす

   *現在、太陽や空気以外のほとんどの「人間にとっての有用物」は、

      人間の労働によって「つくりだされている」。

*道具や機械を使い、自然に働きかけ、環境と整えたり変えたりして。

   *人間は、労働なしには、生きていけない。したがって、労働は

  「やらなければならない」という性質を強くもつ。どんな時代や社会でも。

 

  ◇無数の人びとの労働によって支えられて

   *『いっぽんの鉛筆のむこうに』(谷川俊太郎文ほか、福音館書店)

 

     「自分たちの地球が宇宙の中心だという考えにかじりついていた間、

     人類には宇宙の本当のことがわからなかったと同様に、自分ばか

     りを中心にして、物事を判断してゆくと、世の中の本当のことも、

     ついに知ることが出来ないでしまう。大きな真理は、そういう人の

     眼には、決してうつらないのだ」

(吉野源三郎『君たちはどう生きるか』岩波文庫)

 

 2。人間らしさを育てたのも労働

  ◇手の使用、道具の使用(生産力の高まり。未来への備え)

  ◇手と脳は相互に関連・刺激しあいながら、精巧に発展してきた。

  ◇労働は協同でやるもの(言語や、相手の立場や感情を察する力の獲得)

  ◇芸術や文化も労働から生まれた

  ◇「しなければならない」側面をもちながらも、「喜び」にもなる。

   *ものを生み出す、創造する、形にする、むすびつける、人の役に立つ

   *「労働」をつうじての仲間とのつながりは、独特な連帯感を生み出す

 

 3。社会を支える「働く人びと」-その状況はどうか?

  ◇「私」の生活を支えている人びとのことを想像する

   *生活はどうか? 働き方はどうか? その人の労働は尊ばれているか?

       
     「生み出してくれる人がなかったら、それを味わったり、楽しん

      だりして消費することは出来やしない。生み出す働きこそ、人間

      を人間らしくしてくれるのだ。これは、何も食物とか衣服とかいう

      品物ばかりのことではない。学問の世界だって、芸術の世界だ

      って、生み出してゆく人は、それを受取る人々より、はるかに肝

      心な人なんだ」 (吉野源三郎『君たちはどう生きるか』岩波文庫)

 

     「労力一つをたよりに生きている人たちにとっては、働けなく

     なるということは、餓死に迫られることではないか。それだの

     に、残念な結果だが今の世の中では、からだをこわしたら一

     番こまる人たちが、一番からだをこわしやすい境遇に生きて

     いるんだ。粗末な食物、不衛生な住居、それに毎日の仕事

     だって、翌日まで疲れを残さないようになどと、ぜいたくなこ

     とは言っていられない。毎日、毎日、追われるように働き

     つづけて生きてゆくのだ」   (前掲書)

 

  ◇「労働のあり方」は、「社会のあり方」と結びついている

   *いまの社会は?・・・21世紀の高度に発達した日本の資本主義社会

   *資本主義社会のもとで働くとは?・・・

 

 

二。資本主義社会で「働く」ということ

 1。生産手段(土地、建物、機械、原材料etc)の所有関係

  ◇もっている人たち

   *資本家(他人を雇う)

   *自営業者・農漁民

  ◇もっていない人たち

   *労働者(雇われる人)

    →自分のからだに備わっている「労働力」という商品を

     時間決めで資本家に売ること、売り続けることなしに、生きるすべがない。

  ◇資本家と労働者の関係はもちつもたれつだが、平等ではない

   *雇う側と雇われる側の圧倒的な力関係のひらき

  ◇資本とは何か(いまの社会をつかむうえでとても大事な概念)

 

   *労働者が労働力を売るのは、「使用価値」(商品)が必要なため

   商品 - 貨幣 - 商品  が私たち(労働者)のお金の流れ

*これに対して、資本家が労働者の労働力を買って商品生産をする流れは…

    貨幣 - 商品 - 貨幣  ということ

 

               重要なことは、はじめの貨幣量よりもおわりの貨幣量が

          大きくなるということ。

 

この運動の目的は、貨幣の増加、つまりより大きな貨幣(価値)の

獲得にあること。 資本=自己増殖する価値のこと。

では、なぜ「はじめ」より「おわり」が大きくなるのか。

それは、「労働力の使用」に秘密がある。

 

     「資本主義的生産過程を推進する動機とそれを規定する目的

     とは、できるだけ大きな資本の自己増殖、すなわちできるだけ

     大きな剰余価値の生産、したがって資本家による労働力ので

     きるだけ大きな搾取である」

                     (マルクス『資本論』第11章「協業」)

 

 2。資本のもとにおける労働の「人間の疎外」(長久のとりあえずの整理)

   *「疎外」というのは、抽象的な概念だが、マルクスは若い時代に、

     当時の労働者の実態を自分の感覚で受け取り、「人間の疎外」を

      熱く告発した。それを、今日的に考えられる角度から整理してみた。

 

  ◇労働生産物からの疎外

*生産物が自分のものにならない(資本家のものに)

   *自分のための生産ではなくなる

  ◇生産物が自分(たち)と対立するという疎外

   *資本の巨大化をうながすのも労働の結果。グローバル化の進展。

   *たばこ、原発、ギャンブル、不必要なものでも売る・・・

   *交通事故で毎年5000人も死んでいるのに車社会の見直しはされず

   *通信技術の発達、IT技術の発達・・・。モノにふりまわされる。

  ◇人間らしい生き方からの疎外

   *賃金を得る、ということが目的化してしまう傾向

  ◇自由な時間からの疎外

   *長時間労働(搾取強化)による自由時間の減少(発達の場の減少)

   *24時間型社会(資本の行動原理)による生理的錯乱

  ◇自発的労働からの疎外

   *指示命令下のもとでの従属的労働となりやすい

  ◇協同労働からの疎外

   *自己責任、成果主義、競争の仕組み。

*助けあい、教えあい、支えあいからの疎外。

  ◇職住分離による地域からの疎外

   *働く場所と住む場所がこんなに離れた時代はない。

*コミュニティ形成からの疎外。

   *転勤することの意味

  ◇人間観・ものの見方の疎外

   *部分、能力、成果、容姿などで、人間を評価する(資本の人間観)

   *子育て、教育、就職、職場のなかでも、この人間観が入り込んでくる

   *基本的人権は、これらの価値の下位におかれる

  ◇人間社会全体の共同性の疎外

*対立を不可避・本質とする資本と賃労働の関係

  ◇自然からの疎外(資本主義は自然を壊す。温暖化問題)

 

 

三。社会による規制が、資本の横暴を規制する―人間の復興へ

 1。社会による「強制」とは

  ◇資本を野放しにすると、どんどん人間を疎外する―規制が必要

  ◇多用な方法

   *権力者をしばる憲法。

*国法(法律)による規制=政治闘争を基本にしながらも。

   *国際的な条約。行政の指導や世論の監視など。階級闘争。労働運動。

  ◇19世紀~20世紀に大きな発展をとげてきた規制の力

   *労働時間の規制、賃金、雇用形態、解雇規制、差別禁止…

   *社会的・政治的自由、女性差別禁止、障害者差別禁止…

   *企業活動のルール、企業の社会的責任、環境対策…

   *資本に対抗する人間集団・組織の発展

 

    労働・人間の疎外の克服へ=人間の復興を

 

  ◇資本主義の歴史的発展の度合いを

はかる尺度としての資本の民主的管理

 

     「むきだしの資本の論理を、社会全体の安心や安定、平和や

     豊かさを求めるその国の労働者・国民がどこまで制御し、管

     理することに成功しているか…つまり、…国民による資本主義

     の民主的管理がどこまで達成されているか」

        (石川康宏「『資本主義の限界』を考える」、『経済』09年1月号)

 

 

 2。労働時間の短縮こそが、疎外克服のもっとも大事な土台に

 

  ◇資本から自由になれる時間を増やす=労働時間の短縮

 

    「『自由に利用できる時間』…この時間は、直接的に生産的な

    労働によって吸収されないで、享楽に、余暇に、あてられ、し

    たがって自由な活動と発展とに余地を与える。時間は、諸

    能力などの発展のための余地である」

(マルクス『資本論61~63年草稿』)

 

    「労働時間は、たとえ交換価値が廃棄されても、相変わらず

    富の創造的実体であり、富の生産に必要な費用の尺度であ

    る。しかし、自由な時間、自由に利用できる時間は、富その

     ものである」    (マルクス『資本論61~63年草稿』)

 

 

さいごに:働かなければ生きていけない

     労働者としての生き方とは

     働くことの意味と矛盾を認識して

 

 

 

 

以下、参加者の感想文です。

 

 

*   *   *   *   *   *   *   *

 

資本のもとにおける「人間の疎外」が印象に

残りました。

 「賃金は、労働者がまた次の日も元気に働く

ために必要な額を基準に」という考え方はなかなか

考えたことがなかったですが、成果主義賃金で

仕事の成績が悪いと給料が低く抑えられることは、

仕事できない人の生活、はたまた人生は知った

こっちゃないってことか!? と考えました。就職難や

非正規雇用もあたりまえになってるし、国民の人生も

生活もどうでもいい社会になっている・・・。

 

 働く喜びややりがいがないと、働きつづけることは

むずかしい。人間が自由を勝ちとるためには、

働きつづけないといけないし、学びつづけないと

いけない。

 

 今日も資本=自己増殖する価値のこと、学びました。

資本主義では、できるだけ大きな資本の自己増殖、

大きな剰余価値の生産、資本家による労働力の

大きな搾取、今の日本、過剰なりすぎ、国民が怒って

組合的な活動が発展するといいな。しかし、今、

日本の反対運動がさかんになり始めた。資本の横暴を

とめましょう。

 

 資本家と労働者のそれぞれの特質、力関係について

改めて確認できました。資本のもとにおける労働の

「人間の疎外」についての整理が、いろんな気づきに

つながりました。

 「自由な時間は富そのものである」というのは、まさに

そう考えることが、労働者の喜びにつながると思いました。

 

 人間の疎外の話ははじめて聞いて、なるほど!!と。

せっかく働くんだったら、より良い働き方がしたいと思い

ました。そのためには学びつづけるのだ!!

 

 労働者が労働者でない働き方で生きてゆくには、

どうすればよいのでしょうか。疎外のない状態になる

には、どうすればよいのでしょうか。資本家には

なりたくないし、特異にならないとあり得ないですね。

 

 資本のもとにおける労働の「人間の疎外」で生産物が

自分たちと対立する(資本を増殖させている)矛盾は、

新しい視点だった。

 また、資本の人間観が一般的に支配していて、

学校の成績が良く、いい学校にいけば良い(給料が・・・)

仕事につけるという考え方をあらためていかないと

いけないと思う。