「2000万人の名前をひとりひとり読み上げたら、
いったいどれぐらい時間がかかると思いますか?」
きのうの水島協同病院の憲法学習会でも
この質問をした(よくする)。
2000万とは、日本の侵略戦争であった
アジア・太平洋戦争における、アジアの人びとの
犠牲者の数である。
数というのはとても便利だ。
ひと言でいえる。「2000万人でした」と。
でも、その2000万人の人たちには、
もちろん名前があった。家族もあった。
生活と人生があった。夢もあっただろう。
だから、数は大事だが、
それは固有名詞を消してしまうことを、
私たちは忘れてはならないだろう。
これは、「自殺者年間○万人」「爆弾テロで○○人死亡」
というときも、同じ視点が欠かせない。
「名前を読み上げられるべき、かけがえのない個人」という、
人間の尊厳の視点が、必要だ。
で、日本の侵略戦争によって命を奪われた
2000万人ひとりひとりを名前を読み上げようと思ったら。
「○○さん」「○○さん」「○○さん」・・・
ひとり3秒で読み上げたとする。
1分間で20人の名前が読み上げられる。
24時間ぶっつづけで読み上げたら、
1日で28,800人になる。
では、2000万人読み上げるには?
694日間かかる。
約2年だ。
まったく休みなしに、ひとりひとりの
名前を読み上げつづけて、2年かかるのだ。
想像してみてほしい。
それが、「2000万人」という数の重さである。
「ジェノサイドのおそろしさは、一時に大量の人間が
殺されることにあるのではない。そのなかに、
ひとりひとりの死がないということが、私には
おそろしいのだ。・・・人は死において、ひとりひとり
名前を呼ばれなければならないものなのだ」
(石原吉郎『望郷と海』ちくま学芸文庫)
これは、橋下大阪市長の一連の発言にも
あてはまると思う。
おそらく彼は、「慰安婦」を強制された
朝鮮の女性、アジア各国の女性、オランダ女性の
名前を誰ひとり知らないだろう。
「慰安婦」という言葉は、誤解をあたえる表現であると同時に、
固有名詞をなかなか想起させない。
ひとりひとり、
名前と人間の尊厳をもつ存在だった。
何万もの若い女性たちの尊厳と人生をズタズタにした
日本軍性奴隷制度。
橋下市長は、固有名詞をひとりひとり読み上げて、
「彼女たちが必要でした」と言えるのか?