長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

固有名詞をもった、ひとりひとりの人間だ。


「2000万人の名前をひとりひとり読み上げたら、

いったいどれぐらい時間がかかると思いますか?」

 

きのうの水島協同病院の憲法学習会でも

この質問をした(よくする)。

2000万とは、日本の侵略戦争であった

アジア・太平洋戦争における、アジアの人びとの

犠牲者の数である。

 

数というのはとても便利だ。

ひと言でいえる。「2000万人でした」と。

 

でも、その2000万人の人たちには、

もちろん名前があった。家族もあった。

生活と人生があった。夢もあっただろう。

 

だから、数は大事だが、

それは固有名詞を消してしまうことを、

私たちは忘れてはならないだろう。

 

これは、「自殺者年間○万人」「爆弾テロで○○人死亡」

というときも、同じ視点が欠かせない。

 

「名前を読み上げられるべき、かけがえのない個人」という、

人間の尊厳の視点が、必要だ。

 

 

で、日本の侵略戦争によって命を奪われた

2000万人ひとりひとりを名前を読み上げようと思ったら。

 

「○○さん」「○○さん」「○○さん」・・・

ひとり3秒で読み上げたとする。

1分間で20人の名前が読み上げられる。

 

24時間ぶっつづけで読み上げたら、

1日で28,800人になる。

 

では、2000万人読み上げるには?

 

694日間かかる。

約2年だ。

 

まったく休みなしに、ひとりひとりの

名前を読み上げつづけて、2年かかるのだ。

 

想像してみてほしい。

それが、「2000万人」という数の重さである。

 

 

「ジェノサイドのおそろしさは、一時に大量の人間が

殺されることにあるのではない。そのなかに、

ひとりひとりの死がないということが、私には

おそろしいのだ。・・・人は死において、ひとりひとり

名前を呼ばれなければならないものなのだ」

(石原吉郎『望郷と海』ちくま学芸文庫)

 

 

 

これは、橋下大阪市長の一連の発言にも

あてはまると思う。

おそらく彼は、「慰安婦」を強制された

朝鮮の女性、アジア各国の女性、オランダ女性の

名前を誰ひとり知らないだろう。

 

「慰安婦」という言葉は、誤解をあたえる表現であると同時に、

固有名詞をなかなか想起させない。

 

ひとりひとり、

名前と人間の尊厳をもつ存在だった。

 

何万もの若い女性たちの尊厳と人生をズタズタにした

日本軍性奴隷制度。

 

橋下市長は、固有名詞をひとりひとり読み上げて、

「彼女たちが必要でした」と言えるのか?