長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

「引き込まれた100分間」

きのう(21日)は、第18期倉敷労働学校の
プレ企画があり、10名が参加しました。
講演がほんとうに素晴らしかっただけに、参加が少なくて残念無念・・・。

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18期倉敷労働学校は、10月に開校するべく、

取り組みをすすめていきます。

倉敷近辺のみなさんのご協力を、ぜひともよろしくお願いいたします。

 

さて、きのうの学びは、

「自分の不安と向きあって―働くこと・学ぶこと」というテーマで、

沢山美果子さん(岡山大学大学院客員研究員)に講師をしていただきました。

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わたし、昨年の岡山労働学校の同じテーマの講演も

聞いていて、2回目だったんですが、

やっぱり素晴らしい。ほんとうに素敵な講演内容でした。

 

前回お話されなかったことも、いくつかありましたね。

(『天空の城ラピュタ』のパズーのこととか)

(朝井リョウさんの『何者』のこととか)

 

 

沢山さんご自身の生き方や、学生さんたちとのなかで

培ってきた包容力やものの見方が、聞いている参加者

ひとりひとりの現在と未来にエールとなって響いたと思います。

(感想文をご覧下さい)

 

講演後の感想交流も、それぞれの受けとめや

感動が伝わる内容で、とても充実の時間でした。

参加されたみなさん、ありがとうございました。

 

 

 

 

以下、講演の概要です。

 

 

はじめに

・かけがえのない自分の人生。だから、今を大事に。

・長いスパンで考えることで、柔軟な視点と心の余裕を持って。

 

1、学生たちの不安と、その背景

・学生レポートに見る最近の一つの特徴

就職や働くことへの不安感の早期化、強まり、格差(=将来の見えなさ)

 

・不安の社会的背景(森岡孝二『就職とは何か』岩波新書

 

   非正社員比率の増加

 

   就職率の低下(新卒採用に失敗→フリーターへという不安)

 

  「就活」をめぐる不安

(「就活のかたち 1 疲弊する学生たち」『朝日新聞』2012.5.17

 

・希望はどこにあるのか?

朝井リョウ(1989年生)『何者』 「痛くてカッコ悪い自分」とどう向きあうか

『赤旗』日曜版 2013年5月12日

     学ぶとは? 学ぶことと働くことの密接なつながり

 

 

2、働くこと・学ぶこと

   ・岡山大学での講義の試み:「ジェンダーと生きることー働く未来にむけて」

     

    1997年「男と女の過去と未来」:就職氷河期(→ロストジェネレーション)

        →ニート・フリーター・格差問題

    2001年~2007年「ジェンダーと働くこと」←生きることの課題が「働くこと」に集中

      →『働くこととジェンダー』(講義録) 2007年

     学生へのメッセージ「あした働く君たちへ」

      出来るだけ広い視野で、出来るだけ長いスパンで、

現実の問題を歴史的に考える

      前向きに多面的に

       「フリーターもありなのだ」

       身近な人間関係をみつめる→働く場、働き方、働く意味を考え直す

  ・働くことは生きること

      働き方は生き方の問題

安野モヨコ『働きマン』の多様な働き方

         →働き方に悩む→自分はどう生きたいか

            

    2008年~「ジェンダーと生きること」

        これからの人生60年を生き抜く力を養う

→じっくり考える、原則的に考え物事の本質をつかむ

 

 

3、働くこと・学ぶこと―私の場合

・選びながら生きる:生きること選択の積み重ね

 

26年目の選択:正社員からフリーターへ

   自由とは「本人が価値をおく理由のある生を生きられる」こと

(アマルティア・セン/後藤玲子『福祉と正義』7頁)

  

・学生たちから学んだこと:原点としての20代

 

「何になるか」ではなく「何をしたいか」

 

   ←マイナスをプラスにできる可能性 

 

・仕事も家庭も子育ても:あたり前の人間らしい生き方を求めて

 

←自信のなさがバネに

 

→自立のとらえ直し(宮川ひろ『おかあさんのつうしんぼ』1979年

・自分のなかの違和感や迷い、居心地の悪さ、正当な不安感を問いに

→問う主体は自分自身、大事なのは考え続けるプロセス

→「生きること」を主体的に選択する力に繋がるのでは?

 

おわりに

・仲間とのネットワークを大切に(自立≠孤立)

→「助けを求める力をつけよう」

・あがきながら、他人との関係の中で、理想に自分に近づく

「みんなそれをわかっているから、痛くてカッコ悪くてたって

がんばるんだよ」『何者』

 

 

 

以下、参加者の感想文です。

 

 

◆講演のタイトルでは想像できない、引きこまれるお話でした。

こんなに引きこまれるのは何でだろうと理由をさぐりながら

必死に「言葉」を書き込む100分間でした。頑張りすぎる自分、

周りが見えなくなってしまう自分、思いあがってしまっている自分、

それらも全部問いなおしながら、まわりみちをたくさんしながら

模索していくその生き方、かかった時間、まるまる包みこんでくれる、

そんな姿勢が心に響いたんだと思います。自分は、しっかりと

話のきける人になりたいです。

 

◆仕事を探している自分にとって「働くことは生きること」「何に

なるかより何をしたいか」などタイムリーな話が多かった。

 

◆以前も沢山さんの同じテーマの講義をきいたのですが、聞く

たびにまた新たな発見がありました。「ダメな自分と向きあうと

落ち込むけど、ひとりで何とかしようとするのではなく、仲間と

いっしょに助けをかりながら成長していく」という話は、とても

元気づけられました。私もひとりであっぷあっぷするので・・・。

「助けて」と言うことを大切にしたいです。

 

◆働くことをしたいことだとは思えず、したいことのために働い

ていると思っていました。でも学生の時勉強することが、あまり

嫌いではなかったと思い出しました。仕事のために勉強する

のではなく、楽しみながら勉強し、仕事に生かしていきたいと

思います。

 

◆自分のやりたいことを深く考えていこうと思います。今までは、

仕事中心でしたが、来年定年を迎えるので、それまでいろいろ

考えたり相談したりしていきたいです。仲間を大切にしたいけど、

だんだんと考え方が違ってきてる人もいて・・・。心を広くもつこと

が必要なんでしょうか。

 

◆現代社会を分かりやすく解説してくださり、また、そのような

時代だからこそ人との繋がりや心の余裕を持つことの大切さを

学ぶことができてよかったです。今日から、明日からの私の

生き方に活かしていきたいと思います。貴重な講演を本当に

有難うございました。

 

◆沢山先生の生き方に感動しました。講演の中で印象に残った

のは、「問いに対して答えをだすまでが大切」だということ、立ち

どまって考えることが大事ですね。「何になるかではなく何をした

いか」。これは自分の仕事や生き方の中でも問い続けていきたい

と思います。同時に、いろいろな生き方や考え方を認め合い、

成長していけるような集団や社会になってほしいと願っています。

 

◆「不安」ということにネガティブなイメージをもっていましたが、

よく考えたり成長するために大切な感覚なんだと分かりました。

自分の就活を振り返ったとき、(沢山さんが紹介されていたような)

自分をよく見せたり、激しく競争することにとても不安で居心地が

悪く、結局就活をやめた時期がありました。ときどき、そのことに

ついて後悔したり、自分は弱すぎたのかな、と考えることがあった

のですが、講義を聞いて、やっとそのことは自分にとってやっぱり

よい選択だったな、と整理できました。子育てのお話とてもおもしろく

励まされました!! 沢山さんの体験にもとづいたお話ですーっと

心にしみました。

 

 

 

【追記】

今朝、事務所でメールをひらいたら、昨夜講演をしてい

ただいた沢山美果子さんからメールが届いていました。

 

「真面目に、悩みつつ生きている方たちの感想も聞かせて

いただき、講義を聴いてくれた学生さんが立派な社会人に

なっている姿にも出会えて、私のほうが、励まされ、新鮮な

気持ちになりました。なんだか、夜間学校のような温かい

雰囲気、良かったですね」

 

 

講師をしていただいた方から、こんなに丁寧なメールを

いただいて、ほんとうに感激です。

沢山さん、2月に『近代家族と子育て』(吉川弘文館)という

新著を出されています。まだ未読ですが、近々読んで、

この本をベースにした講座を企画したいと思っているところです。