長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

文化、ヒューマニズム、時間、死と生・・・

きのう(20日)の午前中は、

ソワニエ看護専門学校で教員のみなさん対象の

哲学学習2回目。

前回は唯物論やら弁証法やらを学んだので、

今回はまた別のテーマで。

 

合計3時間近い学習会でした。

最後に質疑応答や感想交流も。

「ソワニエの理念でかかげているものの中に

ヒューマニズムという言葉があり、いままで

それがしっくりきてなかったけど、今日の話を

聞いて、自分のなかでしっかりおちた」と

感想をいただいた方も。感謝。

 

教員のみなさん、おつかれさまでした!

 

 

以下、講義の概要です。

 

 

一。哲学とは何か(ふりかえり)

 1。そもそもの意味は

  ◇世界観ともいう

*自然や社会や人間に対する、芯になるような「ものの見方・考え方」のこと

   *世界観をより区分けすると、自然観、生命観、人間観、社会観、人生観など・・・。

   *「ものの見方・考え方」=「ものさし」によって、行動や実践が変わってくる。

 

  ◇哲学は、英語で「フィロソフィ philosophy」

 

   *つきつめて、根本からものごとを考える学問。

 

2。「哲学」は、あらゆる学問の基礎であるので、応用力が高い

  ◇とくに看護・医療の分野は、「人間」が対象であるからこそ

   *人間とはなにか、人生とはなにか、命とは死とは

   *人間個人は、自然や社会と無関係で生きることは不可能

   *世界(自然・社会・人間)への首尾一貫した世界観(ものの見方・考え方)を

  ◇「ものの見方」は時々メンテナンスが必要

   *目の前の現実・現象ばかり見ていると、「本質」「根本」が見えなくなるときも

 

 3。学生さんのレポートから(今年度の1年生)

  ◇手とは、言葉とは、時間とは、働くとは、社会とは、文化とは、死とは・・・

   *こういう「つきつめて考える」訓練をほとんどする機会がない

 

 

二。人間の文化について-社会的側面から

1。文化とはなんだろう

  ◇英語で文化は「culture(カルチャ)」

   *その動詞形は「cultivate(カルティヴェイト)」

   *その意味は、「~を耕す」「~を栽培する」「~を養う(育てる)」

   *人間らしさをつくるものとしての文化。

 

  ◇生きるために絶対必要な、衣食住も、文化的要素を取り入れている。

   *食事の空間、社交的要素。ゆったりと、さまざまな器で、さまざまな

      調理方法で、食材を楽しみ、味わって食べることができるのは、人間だけ。

   *ファッションも人間独特。社会性をもつからこそ、ファッションが生まれる。

   *住む家も、たんなる「ねぐら」ではない。空間性。そこでも文化的営みも。

 

  ◇ゆとりが文化を育てる

   *お金・・・下がる雇われ組の賃金。消費税は上がる。年金は下がる。

医療費は上がる。

*自由な時間・・・時間の貧困を生み出すもの。

長時間労働と家事労働のいびつな形。

*人間関係・・・孤独のなかからは、文化は育まれない

 

*「ゆとり」を奪われている社会-社会的・経済的要因

*貧困は文化を蝕む

      ・憲法25条は「すべて国民は、貧困であってはならない」という宣言

      ・人間だから

 

 2。補論―10代・20代の文化的変遷について

  ◇家庭環境の経済的・社会的「格差」―家庭文化の影響

   *ゆとりのあるなし―家庭環境のちがい

   *家族関係の複雑さと困難―親の経済状態が影響

  ◇学校空間のなかにある「競争文化」「努力神話」

   *ともに~する、という経験の少なさ。聴きあい、励ましあい、学びあい、

      高めあい、認めあい、支えあい、助けあい…。

   *ソワニエの文化を培うためには

  ◇文化の個別化・多様化

  ◇ネット文化の影響

   *情報過多。安易さ。じっくり、つきつめて、討論して、ということの不足。

   *SNS。つながり。ネット上では本音が言える。依存問題。

  ◇文化のギャップを否定せず、楽しみつつ、背景を見極め共感する姿勢で。

 

 

三。人間だからこその「問いかけ」(1)-人間らしさ

 1。人間らしさを問う―ヒューマニズムの歴史的そもそも

◇ルネサンス時代

14世紀イタリアではじまり、16世紀までにヨーロッパ全体に

   *資本主義的生産が発達していたイタリアでは、商業資本家が、

      いちはやく社会の実権をにぎり、14世紀後半からいわるゆ

      “ルネサンス”の時代を生み出していく。

   *ルネサンスとは、「再生」「復活」を意味する言葉。

文芸復興と訳されることも。

   *その主役は、人文主義者(ウマニスト・・・英語ではヒューマニスト)たち

    ・「人間って、いいんじゃない」という人間観。教会が説く「罪深い存在」

       「禁欲」ではなく、人間のあり方・幸福の手段を多様な形で追求したり

       表現したりした。

 

   *ルネサンス期の代表的な人物・・・レオナルド・ダ・ヴィンチ

    ・1452年、イタリアのフィレンツェ郊外にある

ヴィンチ村に生まれる。14歳で芸術の道へ。

    ・「モナ・リザ」「最後の晩餐」などが有名。

    ・彼は生涯に5000枚の手記を残している。その手記

には、文学論、絵画論をはじめとして、自然に対す

る認識、数学、力学、天文学、建築土木、都市計画、

軍事技術など、あらゆる分野にわたって、彼が知の

エネルギーをそそそいでいたことがわかる。

 

  ◇しかし、限界もあった

   *ルネサンスの巨匠たちは、封建制と宗教的イデオロギーとの

      たたかいは展開したが、はたらく人々の状態や抑圧への関心は弱かった。

   *それは、彼らの立場(資本家階級が彼らのパトロンだったこと)からの限界

   *資本主義への移行を推進するかたちでの進歩的前進

 

 

 2。18世紀の啓蒙思想へと引き継がれたヒューマニズム

  ◇フランスの絶対王政を徹底的に批判した人たち

ー啓蒙思想家といわれている

   *ヴォルテール、モンテスキュー、ディドロ、ルソーなど

   *激しい思想闘争が、フランス革命を思想的に準備していった

   *フランス人権宣言ー身分制度の廃止へ

  ◇人権の宣言と確立

   *ロックの自然権思想

   *アメリカの独立宣言

   *そしてフランス人権宣言

 

   *民主主義の前進

 

     ヒューマニズムは、民主主義と深い内的つながりをもっている。

 

  ◇啓蒙思想の限界

   *資本主義の枠内での自由や民主主義であったこと

   *貧困や階級対立・人間差別をなくすことはできなかった

 

 3。資本主義の矛盾に挑むー社会主義思想とヒューマニズム

  ◇資本主義の人間疎外を乗り越える問題提起をした

   *社会主義思想(資本主義ではダメなんじゃないか思想)

   *サン・シモン、フーリエ、ロバート・オーエンの「偉大な空想家」

    ・するどい洞察、卓見、ユニークな視点で資本主義における人間

       らしさの抑圧・喪失を批判し、それに代わる社会を展望した。

       それは、ヒューマニズム思想の正統な継承者とも言えた。

 

    しかし、時代の制約もあり、彼らは、

     ①資本主義の矛盾の根源・仕組みを明らかにできなかった

     ②資本主義の発展法則が、どのような未来を準備するのかを

見い出せなかった

     ③そのような社会を実現する主体は誰なのかを解明できなかった

 

  ◇19世紀。マルクス、エンゲルス。科学的社会主義の基礎をうちたてる。

   *マルクスも、「人間の疎外」という抽象的な概念から出発しながらも、

      徹底的な経済学の研究で『資本論』を書きあげ、「疎外」をもたらす

      ものの正体、それを克服する主体者を明らかにした。

   *「そもそも」を徹底的に明らかにした人たち。

 

   「人間とは何か」「人間らしさとは何か」を問うてきたヒューマニストたち

 

      それを奪うものとの不断のたたかい。

      その時代、その時代の課題と格闘し、発展させられてきた思想と運動。

 

 

 4。ヒューマニズムの積荷目録

  ◇高田求『君のヒューマニズム宣言』(学習の友社、1983年)から

 

   *ヒューマニズムとは、特定の理論体系をいうのではない。「人間らしさ、人間

      くささを大切に!」「人間らしく生きるために不可欠なものとは何か?」

 

     ①笑いを大切にするー「人間は笑うことのできる唯一の動物」(アリストテレス)

     ②寛容とユーモアの精神ー自分の意見を絶対化しない

     ③非人間的なものに対するたたかいー人間の名において、許せないものがある

     ④個性の尊重ー人間らしさ、人間くささは、色とりどりの形をとって表れる

     ⑤文化の尊重ー人間の諸能力は文化によって育てられる。より豊かな文化を!

     ⑥教養の尊重ー学問・知識を身につけることによって養われる、心の豊かさ

     ⑦平和を愛するということー人間を押しつぶす最大のものが戦争と暴力

 

◇日本国憲法の人間観ーヒューマニズムの結晶でもある

   *13条「個人の尊重」「生命・自由・幸福追求」

   *14条「法の下に平等」

   *18条「奴隷的拘束を受けない」

   *19条「思想及び良心の自由」

   *20条「信教の自由」

   *21条「一切の表現の自由

   *22条「居住」「職業選択の自由」

   *23条「学問の自由」

   *24条「両性の本質的平等」

   *25条「健康で文化的」

   *26条「教育を受ける権利」

   *27条「勤労の権利」

   *28条「団結する権利」

   *12条「不断の努力」

   *9条「国際平和を誠実に希求し」「武力の行使は・・・永久にこれを放棄する」

   *前文「恒久の平和を念願し」「平和を愛する諸国民の公正と信義」

      「恐怖と欠乏から免れ」「平和のうちに生存する権利」

 

 

四。人間だからこその「問いかけ」(2)-時間の使い方

 1。時計技術の歴史と発達

  ◇時を認識し、それにそって生きる

   *最初は、天体観測から、時間や日付や季節を認識するように

   *日時計、水時計、砂時計、火時計、ランプ時計・・・

*機械時計、振り子時計、原子時計、電波時計・・・

たとえば、江戸時代の「時の尺度」は「一刻(いっこく)」

「一時(ひととき)」など、かなり大雑把だった。

  ◇時計技術の飛躍で―とくに、分・秒など細かい「時」の計り方が可能に

   *電車の時刻はかなり正確、カップラーメンは3分、テレビCMは15秒・・・

 

 2。人間は、いつも時間を認識して生活している

  ◇いつも時間とともに生きている

*今日は何時に学校に行って、何時からあの人と会って・・・

   *今日から6月だな・・・週末の予定はあれとこれと・・・

  ◇格段に増えた、「時間」を見るということ

   *時計のほかにも、携帯電話・パソコン…

  ◇時系列のなかに、「今の○○」を置く。

  ◇ものごとを時間との関連で整理し、考えることもできる

   *自分の人生の時間・・・

   *この橋の耐用年数は・・・

   *英語を話せるようになるには5年計画で・・・

   *この仕事をやるには、何日必要だ。

   *この企画を成功させるには、これだけの準備期間が必要だ。

◇「時」を無視しては、何事もうまくいかない。

   *逆に、「時」をきちんと手のひらにのせ、コントロールすることができれば、

     目的にそって、いろいろなものやことを生み出せる。

   *だから、「目標」と「計画」を立てることは、ほんとうに大事なこと。

 

  ◇人間だけが、「時間を決めて、集まれる」

   *動物が群れるのは、本能的働き

   *人間は、いろいろな場所に、目的をもって、「同じ時に集まれる」

   *オリンピックやワールドカップができるのは、人間だけ

 

 3。時間は、人間発達の場である(マルクス)

  ◇自由に使える時間は、人間の諸能力を発揮させる余地

  ◇睡眠時間・労働時間・自由時間

  ◇自由時間(ゆとり)をたたかいとることの大事さ

   *看護師の増員、労働時間規制。看護師にとっての「ゆとり」「自由時間」。

 

 4。過去と現在と未来

  ◇人間は、歴史・過去から学べる

   *歴史をひもとくと、「そもそも」「本質」がつかめる

   *人間の歴史は、おもしろい

  ◇いまの「生き方」は、過去と未来とにつながっている

 

 5。人間にしかできない時間の使い方―見ず知らずの人のために時間を使うこと

  ◇1人称の時間、2人称の時間、3人称の時間(幸福観ともつながっている)

   *東日本大震災の被災地には、全国から数多くのボランティアが。

   *世の中のため、社会のために、自分の時間を使っている人は、ほんとう

     にたくさんいる。人間はそういうことができる存在。だから進歩してきた。

 

  ◇自分の時間の使い方を考え、整え、創造することができるのが、人間。

   *「1人称の時間」「2人称の時間」「3人称の時間」

それぞれは、バラバラではない。

   *「他人のための時間」が、「自分のための時間」にもなる

   *「自分のために使う時間」が、「他人のために使う時間」のエネルギーにもなる。

   *また、人生のそれぞれの時期、境遇によって、「時間の使い方」も変わってくる

 

 

五。人間だからこその「問いかけ」(3)-死の認識。生の自覚。

 1。死の認識

  ◇「死んだら生き返らない」という認識。死への手持ち時間、という認識。

  ◇死は1度しかないから、自分自身で経験を語ることはできない(他者評価)

  ◇「死に方」「見送り方」について、人類は文化をつくってきた。死への距離の変遷。

  ◇誰でも死ぬ、という認識。死ぬまでは「生きている」という認識。

  ◇いつ死ぬかは、わからない。死は身近にある。生のはかなさ。認識の強弱。

 

  【授業前の「読書日記」で過去に読んだ「死」「死に方」関連の本】

『病院で死ぬということ』(山崎章朗、主婦の友社、1990年)

『「死の医学」への日記』(柳田邦男、新潮文庫、1999年)

『自宅で迎える幸せな最期』(押川真喜子、文藝春秋、2005年)

『生と死の美術館』(立川昭二、岩波書店、2003年)

『看護のなかの死』(寺本松野、日本看護協会出版会、1985年)

『死ぬ瞬間ー死とその過程について』

(E・キューブラ・ロス、鈴木晶訳、中公文庫、2001年)

『デス・スタディー死別の悲しみとともに生きるとき』

(若林一美、日本看護協会出版会、1989年)

『死ぬのは、こわい?』(徳永進、理論社、2005年)

『「平穏死」のすすめー口から食べられなくなったらどうしますか』

(石飛幸三、講談社、2010年)

『「葬儀」という仕事』(小林和登、平凡社新書、2009年)

『お墓めぐりの旅』(新井満、朝日文庫、2010年)

『桜葬-桜の下で眠りたい』

(井上治代・NPO法人エンディングセンター、三省堂、2012年)

『おもかげ復元師』(笹原留似子、ポプラ社、2012年)

『死に逝くひとへの化粧―エンゼルメイク誕生物語』

(小林照子、太郎次郎エディタス、2013年2月)

『ぼくがいま、死について思うこと』(椎名誠、新潮社、2013年)

 

 

 2。生の自覚

  ◇人生は1度しかない。命はひとつしかない。

 

  ◇「生きている」と「どう生きるか」の区別

―「生き方」が問題になるのは人間だけ

 

  ◇社会のなかで生きている

―「どう生きるのか」はさまざまな人間諸関係のなかから

*社会と無関係には「問い」が立てられない

   *自分が生きている社会・時代への認識

 

さいごに:あらためて、哲学の姿勢の問題について

 

 

以上。