長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

母に歌う子守唄

『母に歌う子守唄―わたしの介護日誌』(落合恵子、朝日文庫、2007年)
『母に歌う子守唄 その後―わたしの介護日誌』(落合恵子、朝日文庫、2011年)
を読み終える。以下、まじめな書評。

 7年間の介護記録である。いや、「介護記録」と書くとちょっとちがうような。介護を仲立ちにした母と娘の生活綴方(つづりかた)ともいえる。
 読む人の立場によって、いろいろ読み方が可能だ。
 介護を実際にしている人にとっては、自分の気持ちや姿勢と対話するためのよき「バイブル」となる。
 大きな社会問題の視点で介護をとらえることもできるし、医療や福祉に携わる人が読めば、多くのまっとうな問題提起をふくんだものとなっている。
 落合さんの「自分の違和感に蓋をしない」という姿勢は、「人権にこだわる」とはどういうことか、のお手本にも。
 「ひとつのいのちを深く見つめることは、ほかのいのちをも地続きのものとして見つめることである」の言葉と感性は、この本の基底になっている倫理観だ。

 わたしは、「落合さんのにぎっている言葉」という視点から読みすすめた。「自分の心と行動をコントロールするものとしての言葉」である。 
 落合さんがくり返し書いているように、介護は、「悔い」の連続である。とくに、介護される側の母は、自分の言葉で意思表示ができない。選択はつ ねに娘
の落合さんにかかっている。「ほんとうにこれでよかったの、お母さん?」「もっとあのときこうしていれば…」の悩みが消えることはない。
 そんな介護の日々の揺れ動く気持ちと行動を、落合さんは「書き綴る」ことによって確認し、自分と向きあい、もの言わぬ母と対話している。生活を 書き綴
ることによって自分を救い、気持ちを整える。言葉の重要な役割のひとつだ。
 落合さんのつむぎ出す、装飾のない、ていねいな言葉を、ぜひ多くの人に受けとってほしい。