長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

民主的な職場づくり(レジュメ後半)

二。育ち合う職場、とはどんな職場だろう―考える材料に
 1。個人と組織の目標の設定(連動していることが望ましい)。そこへの参画。
  ◇役割・使命の共有。共有とは、自分のこと・自分のものだと思っている状態
  ◇目標決定プロセスへの主体的参画
   *目標設定に当事者を参画させずに、あとから主体性がないといっても、
要求するほうが無理。内発的動機づけを。意欲や行動に。
  ◇目標・使命を節目節目で確認・検証し、みがいていく不断の努力

 2。民主的な職場とは(表現の自由=風通しの良さ、と参画)
  ◇決定的なのは、表現(とくに言葉による伝えあい)の自由―人間の尊厳そのもの
  ◇しかし、職場のなかにはさまざまな「力」が働いている(そしてそれはな
くせない)
   *上司と部下。役職とそうでないひと。先輩と後輩。年齢。雇用関係。
ジェンダー。医師と看護師など。(余談ですがハラスメントはこうした力 関係
のなかで起きる)
   *強者と弱者、声の大きいひと小さいひとがかならずいる、ということを
認識する
   *人間集団の力関係を完全にフラットにすることはできない(家庭でも職
場でも)
   *「力」をもっている側の姿勢(民主主義度)が問われる。仕組みやルー
ルも。
  ◇民主的でない職場は、表現の自由が抑圧されている状態。参画できない。
排除。

   【「力」が強烈に働く「学校」の現場で高まりあいをつくる実践例】
   *生活綴り方教育。毎日の生活を書き綴る。みなで共有する。考える。
*自己の言葉を自由に書きあうことによる言葉による「伝えあい」。
    *なにを書いても否定されない、無視されない、受けとめてくれる保障。
    *とくに教室内でいちばん「力」をもっている先生の姿勢と力量
    *心と体をひらいて伝えあいができる集団であることが必要。多様性の
受容。

    「子どもが毎日書いてくる日記に、教師が心をこめた赤ペンを入れてい
く。これ自体、子どもの心を育てる大きな仕事である。また、子どもが 日々の
生活のなかで、事実とぶつかったなかでの感動、とまどい、疑問などの心のふる
えが、通信や文集によって学級に提示される。これがさらに子ど もの心を育て
ていく。これらの仕事の継続と積み重ねが、子どもの心に少しずつ大切なものを
育てていく。この仕事のなかで、とくに大切なのは、子ど もが自分の内面を隠
さずに書いてくることだと思う。いやなことはいやだと書けること、美しいこと
を美しいと書けることだと思う。教師の顔色をうか がって書きたいことも書け
ないようでは、けっして子どもの心は育たない。子どもの思いをしっかりと受け
とめ、支え、共感する教師のいる教室では、 子どもは自分の内面を隠すことな
く書いてくる。また、何を書いてもよいという保障がされ、仲間をまるごと受け
入れ、1人ひとりの作品から学んでい こうとする子どもたちのいる学級では、
それがさらに早く実現していく」(津田八洲男『きかん車の詩―生きかたを学び
あう子どもたち』大月書店)
  ◇関係性
   *職場のなかの関係性がよくなると、自己を否定される恐れがなくなるの
で、その場が安全になる。様々な異なる意見が提示される。失敗を恐れ て何も
しないという状態から抜け出す。経験や教訓が共有される。
   *さらにそれが仲良しグループ的でない、「目的の共有(使命・理念・課
題)」が加わると、より幅広く深い探求が行われるように動きが変わっ てくる。

    「仲間との議論はほんとうに有益でした。たとえば何か疑問が生じたと
き、先生に質問したとすると、正しい答えが返ってくればそれで終わり です。
でも、その疑問について友人どうしで議論したりすると、みんなの考え方が縦横
に広がっていくんです。その過程で相手に教えたり、教えられた りの切磋琢磨
ができるし、いままで気づかなかった新しい発見が生まれることもあります」
     (益川敏英『「フラフラ」のすすめ』講談社)

  ◇民主主義には、ゆとり、が必要―忙しさのなかでむずかしい課題ではあるが
   *めんどうくささを受容できる環境をつくる
   *時間的ゆとり、速さや効率を求められない、人間関係のゆとり
   *1人ひとりの差異を認めあいながら、共通性をつくりだしていく
   *民主主義に完成なし。つねに追い求める課題。

 3。関係性をつくる身体や距離感
  ◇レスポンス(反応)する身体

     「たとえば、『うなづく』という動きをとりあげてみよう。だれしも
経験のあることだと思うが、自分が真剣に話をしているときに、相手が うまく
うなづいてくれると、ひじょうに話がしやすくなる。無表情で何のレスポンスも
ないと、徐々に話がしづらくなってくる。私たちは、相手のレス ポンスによっ
て勇気づけられてつぎの行動に踏み出すのである。そこには、相乗効果がある。
うなづくことが技となっている人がいる。そうした人と話 していると、自分の
話が受け入れられているという感触をもちやすいので、身体全体がリラックスし
てくる」              (齋藤孝 『自然体のつくり方』角川文庫)

     「まったく反応をしない冷えたからだであれば、働きかけをする側も
疲れてしまい、やがて両者のあいだの関係は冷えてくる」         
(前掲書)

     「レスポンスといっても、かならずしも難しいことではない。目を合
わせたり、うなづいたり、ほほえんだり、声を出したりする程度のこと でもい
い。そうしたことが会話の潤滑油となり、つぎの言葉を誘いだしやすくなる。身
体レベルの反応が、言語的やりとりの基礎部分をなしているので ある」  
(前掲書)
     「ハリウッド映画の名作に『十二人の怒れる男』というものがある。
これは、裁判の陪審員たちのディスカッションのやりとりだけで構成さ れた映
画だ。そのなかでは、さまざまな人種や階級の人間が市民としての自覚をえてい
くさまが描かれている。1人ひとりは偏見をもっていたり利己的 であったりも
するのだが、全体を貫く民主主義の空気が1人ひとりを成長させるのである。こ
こでのディスカッションのやりとりは、民主主義の伝統の 差を私たちに感じさ
せる。相手との距離感を上手に測りながら、一定の節度をもってレスポンスを増
幅しあう。たとえそれが相手に対して否定的な意見 であったとしても、きちん
とレスポンスをする。そして、それをおたがいに言葉で確認しあいながら、つぎ
の段階へ進んでいく。もちろん、映画だから ディスカッションがかみあうよう
に作ってあるわけだが、陪審員制度という制度が成立するためには、レスポンス
する身体がある水準に達していること が前提とされている」   (前掲書)


   *関係性の構築、レスポンスしやすい会議や学習会の雰囲気と距離感の大事さ


  ◇聴く、という姿勢―聴きあう関係性づくり
   *信頼関係をつくるおおきな水脈
   *さまざまな気づきや高まりあい
   *話し上手より聴き上手の人が多い職場に
   *でも聴く行為は、エネルギーが必要(苦労多き道)

 4。その他、もろもろ
  ◇成長するのは職場のなかだけではない
  ◇学習機会をたくさんつくる。誘いあう。読んだ本を紹介しあう。
  ◇人間の成長や関係性は、思いどおりにいくことのほうが少ない
  ◇エネルギーやストレスのかかる姿勢。グチを言える人を2人はつくっておく。
   *もちろんあなたも誰か2人のグチの聞き役をする
  ◇失敗やつまづき、困難を、「自分だけのせい」にけっしてしないこと
  ◇ちがう世界の楽しみや喜びをたくさん知る―趣味や生きがい
   *「自分の顔」をたくさんもっておくほうがよい
  ◇リフレッシュするときは思いっきりリフレッシュする―職場から離れる
  ◇行動することも大事だが、「待つ」「様子をみる」ことが必要なときもある
  ◇文化の個別化、世代間の違い
  ◇労働組合は、育ち合いのとても大切な舞台
  ◇理念をかかげ、社会的・政治的課題にも取り組む民医連的使命と「おおい
なる矛盾」