長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

アウシュビッツを訪れて(上)

*『地域と人権』(岡山県人権連機関紙)への連載「若者を戦場に送らないために」の2回目です(5月15日号)

今年の2月9日、ポーランドのオシフィエンチムという町にあるアウシュビッツ強制収容所跡を訪ねました。現在はポーランドの国立博物館として運営されています。
この強制収容所は、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによってユダヤ人、ポーランド政治犯、ソ連軍捕虜など130万人が連行され、およそ110万人が殺された場所です。ナチスがユダヤ人の絶滅計画をたて、各地の強制収容所で毒ガスなどによる虐殺を行ったことは本や映画などで知ってはいましたが、いちど現地を見てみたいという思いが以前からありました。
 現地では、公式ガイドの資格をもつ日本人の中谷谷剛さんが案内をしてくれ、当日は10名の日本人(ほとんど若者だった)で一緒に見てまわりました。
 見学の感想の前に、興味深いことをご紹介します。いま、アウシュビッツには、過去最高の訪問者が訪れている、という事実です。2001年に年間 約50万人だった訪問者は、2006年には約100万人に増え、さらに現在では年間約160万人がこの場所を訪れていて、夏場などは入場制限をしているほどだとか。私が訪れた日も、フランス人をはじめ、多くのヨーロッパの若者が現地に来て学んでいました。ちなみに日本人は年間約1万5千人 ほどが訪れているそうです。
 なぜアウシュビッツへの訪問者が年々増えているのかといえば、ヨーロッパ全体の「危機感のあらわれ」とガイドの中谷さんが述べられていました。 ヨーロッパは、日本と同じように人口が頭打ちになり、経済的な理由から積極的に海外からの移民を受け入れています。しかし、宗教や文化的背景が まったく違う人びとと共生することはやはり壁も多く、移民排斥や人種間の対立など、さまざまな問題が山積しています。イスラムへの偏見もありま す。
 こうしたなかヨーロッパでは、「いまアウシュビッツに学ぶことで、現在の危機に対応していこう」という問題意識があるそうです。過去に学ぶことで、今ある問題に対処していく力をつける、同じ過ちを犯さない、という姿勢です。
 私もじっさいにアウシュビッツに訪れてみて、たんに「人類史上まれにみる悲劇」という過去の視点だけでなく、いろいろなことを自分自身につきつけられ、「考えさせられる場所」だということを強く感じました。なぜこのような虐殺が可能だったのか、なぜ止められなかったのか、いまの日本社会にもつながる共通の問題…。次回、より具体的に述べたいと思います。