読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

メモ。「長沼ナイキ基地訴訟」第一審判決。1973年9月7日 。

メモ

第三、憲法の平和主義と同法第九条の解釈

 一、憲法前文の意義

 1 およそ一国の基本法たる憲法において、それを構成する各個の条項の記述に先だつて、前文としてその憲法制定の由来、動機、目的、あるいは基本原理などが明記され、また宣言されていることは、しばしばみられるところである。

 わが国の現行憲法も、前文を四項にわけ、その第一項ないし第三項において「憲法の憲法」とでもいうべき基本原理を定めている。それは、国民主権主義と、基本的人権尊重主義と、そして平和主義である。

 2 平和主義については、まずその前文第一項第一段において、「日本国民は……諸国民との協和による成果とわが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、……この憲法を確定する。」と規定し、また、その第二項においては、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するものであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と規定し、そして、第三項において、「われらは、いづれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて政治道徳の法則は、普偏的なものであり、この法則に従うことは、……各国の責務であると信ずる。」旨述べたあと、最終第四項で、「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。」として前文を結んでいる。

 このような憲法の基本原理の一つである平和主義は、たんにわが国が、先の第二次世界大戦に敗れ、ポツダム宣言を受諾させられたという事情から受動的に、やむをえず戦争を放棄し、軍備を保持しないことにした、という消極的なものではなく、むしろ、その前文にもあるごとく、「われらとわれらの子孫のために……わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、……再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」(第一項)するにいたつた積極的なものである。すなわち、一方では、この平和への決意は、たんに今次太平洋戦争での惨禍をこうむつた体験から生じた戦争嫌悪の感情からくる平和への決意にとどまらず、それは、日清、日露戦争以来今次大戦までのすべてについて、その原因、ならびに、わが国の責任を冷静にかつ謙虚に反省し、さらに、その結果を、後世の子孫たちに残すことにより、将来ふたたび戦争をくり返さない、という戦争防止への情熱と、幸福な国民生活確立のための熱望に支えられた、理性的な平和への決意であり、そしてまた、他方において、一般に戦争というものが、たんに自国民だけではなく、広く世界の他の諸国民にも、限りない惨禍と、底知れない不幸をもたらすことは、必然的であつて、このような悲劇についての心底からの反省に基づき、今後そのような悲劇を、わが国民だけではなく、人類全体が決してこうむることのないように、みずから進んで世界の恒久平和を念願し、人類の崇高な理想を自覚して、積極的にそれを実現するように努めることの決意である。そして、この決意は、現在および将来の国民の心のなかに生き続け、真に日本の平和と安全を守り育てるものであり、究極的には、全世界の平和をもたらすことになるものである。

 このように、わが国は、平和主義に立脚し、世界に先んじて軍備を廃止する以上、自国の安全と存立を、他の諸外国のように、最終的には軍備と戦争によるというのではなく、国内、国外を問わず戦争原因の発生を未然に除去し、かつ、国際平和の維持強化を図る諸活動により、わが国の平和を維持していくという積極的な行動(憲法前文第二項第二段)のなかで究極的には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」(同第二項第一段)のである。これは、なによりもわが国が、平和憲法のもとに国民の権利、自由を保障する民主主義国家として進むことにより、国内的に戦争原因を発生させないこと、さらに、平和と国家の繁栄を求めている世界の諸国のなかで、右のように、平和的な民主主義国家として歩むわが国の生存と安全を脅かすものはいないという確信、そしてまた、今日世界各国の国民が、人類の経験した過去のいついかなる時期にもまして、わが国と同様に、自国の平和と不可分の世界平和を念願し、世界各国の間において、平和を乱す対立抗争があつてはならない、という信念がいきわたつていること、最後に、国際連合の発足によつて、戦争防止と国際間の安全保障の可能性が芽ばえてきたこと、などに基礎づけられているものといえる。このことは、憲法が、その前文第二項第二段からとりわけ第三項において、自国のみならず世界各国に対しても、利己的な、偏狭な国家主義を排斥する旨宣言して、自国のことばかりにとらわれて、他国の立場を顧慮しようとしない独善的な態度を強くいましめていることからも明らかである。

 このような前文のなかからは、万が一にも、世界の国国のうち、平和を愛することのない、その公正と信義を信頼できないような国、または国家群が存在し、わが国が、その侵略の危険にさらされるといつた事態が生じたときにも、わが国みずからが軍備を保持して、再度、武力をもつて相戦うことを容認するような思想は、まつたく見出すことはできないといわなければならない。

 3 このような憲法前文での平和主義は、他の二つの基本原理である国民主権主義、および基本的人権尊重主義ともまた密接不可分に結びついているといわなければならない。

 (1) すなわち、憲法前文第一項は、前記した「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、」に続けて、「主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」とし、さらに、「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。」と平和主義と国民主権主義とを結びつけていることからも明らかである。このことは、過去の歴史上、戦争が、国民の生命財産を守るために国民の意思によつておこなわれたことよりも、しばしば、国民とは遊離した一部の者が支配する政府の独善と偏狭のために原因が形成され、ぼつ発したという事実に基づいて、そのような過ちを二度とくり返さないために、国民主権のもとに強く政府の行動を規制し、その独善と専行を排除することにより、平和の万全を確立しようとするのであり、他面、国民主権主義が、真に国民のためのものとして確立されるためには、そこには、平和主義が十全に確保されていなければならないとの思想に基礎づけられているものである。

 (2) 他方、前文第二項は、前記した平和主義の規定に続けて、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」ことを明記している。これは、この平和的生存権が、全世界の国民に共通する基本的人権そのものであることを宣言するものである。そしてそれは、たんに国家が、その政策として平和主義を掲げた結果、国民が平和のうちに生存しうるといつた消極的な反射的利益を意味するものではなく、むしろ、積極的に、わが国の国民のみならず、世界各国の国民にひとしく平和的生存権を確保するために、国家みずからが、平和主義を国家基本原理の一つとして掲げ、そしてまた、平和主義をとること以外に、全世界の諸国民の平和的生存権を確保する道はない、とする根本思想に由来するものといわなければならない。

 これらの思想は、また、国際連合憲章前文にもみられるところであり、さらに、第三回国連総会において採択された「人権に関する世界宣言」の前文に、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利との承認は、世界における自由、正義および平和の基礎をなしているので、人権の無視と軽べつとは、人類の良心をふみにじつた野蛮な行為を招来したのであり、また、人間が言論及び信抑の自由と恐怖及び欠乏からの自由(解放)を享有する世界の到来はあらゆる人たちの最高の熱望として宣言されて来た」、という文言によつても明らかにされているところであつて、わが国の憲法も、これらの思想と合致し、これをさらに徹底したものである。

 そして、この社会において国民一人一人が平和のうちに生存し、かつ、その幸福を追及することのできる権利をもつことは、さらに、憲法第三章の各条項によつて、個別的な基本的人権の形で具体化され、規定されている。ここに憲法のいう平和主義と基本的人権尊重主義の二つの基本原理も、また、密接不可分に融合していることを見出すことができる。

 4 そして、国民主権主義が国民各自の基本的人権尊重と、これまた不可分に結びついていることは、改めて述べるまでもないことであつて、ここに三基本原理は、相互に融和した一体として、現行憲法の支柱をなしているものであつて、そのいずれか一つを欠いても、憲法体制の崩壊をもたらすことは、多言を要しないところである。

 前文の最後は、これらの憲法を貫く諸原理は、たんに美辞麗句に終ることのないように、日本国民みずからが、国家の名誉にかけて、全力をもつてこれらの崇高な理想と目的を達成することを、全世界の前に宣言したものである。