長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

「学びあい育ちあう職場づくりのヒント」 レジュメ

きのう(29日)は、朝から山口県宇部市に。
山口民医連の役職者研修にて講師仕事でした。

昨年の青森民医連での管理者研修と
まったく同じカリキュラム方式で丸1日の研修です。
「憲法の人間観」「ものの見方・考え方」
「学びあい育ちあう職場づくりのヒント」と3本の講義を担当しました。

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約30名の参加でした。

3本講義すると当たり前ですがヘロヘロです(+_+)。
でもみなさんしっかり聴いていただき、
討論も現場の実際とかみあわせて良いものになっていたと思います。

職場にはさまざまな矛盾があるけど、矛盾を矛盾としてとらえ、
みんなで確認し議論しながら、前に進むしかないのですよね。

今週土曜日、もう1回同じ研修会で来ます。


以下、「学びあい育ちあう職場づくりのヒント」の
レジュメのみご紹介します。


はじめに:どんな組織でも、人間の集まりである以上、「教育」
     という営みがある。教える、育ちあう、学びあう、
     高まりあう。それなしには組織は生き生きしないし、
     教育のない組織に未来はない。人が育たないから。
     待つこと。じっくり。でも求め続ける。

一。育つ、とはどういうことだろう
 
1。変化する、ということ
  ◇野菜が育つ、子どもの成長、人として成熟する・・・
   *あるものが、あるものでありながらそれまでの状態から変化すること
   *人の場合、「~ができるようになる」以外にも、たくさんの「力」を
    つけること。
    ・洞察力、感性、問題にきづく力、社会性、受容力、聴く力・・・

 2。育つ主体と環境―場を準備する
  ◇種を植えれば芽が出、やがて成長する。これは必然であり、その
   主体内部の力。
  ◇しかし、適切な土壌や水分、環境を整えなければ、枯れてしまう危険も。
   *育つ主体はあくまで相手。内的な力。
   *あわせて外的要因も大事。「たまたま」(偶然)をたくさん準備する。
    →きっかけ、出会い、学び、めあて、仲間の存在

  【岡山県民医連「平和ゼミナール」での経験】
  ◇2013年度から、第1回の平和ゼミナール(月1回午後。全9回)
   *それぞれ事業所から青年職員を派遣してもらう形で。14名参加。
   *長久も企画段階から関ってほしいということで、全回参加・サポート
  ◇2014年度、第2回平和ゼミナール。全10回。11名参加。
  ◇2015年度、第3回平和ゼミナール。全10回。11名参加。
   *カリキュラム
    ①7月 開校式・記念講演
     「日本国憲法と安倍政権のキケンな狙い」(中田進さん講師)
    ②8月 戦争との距離―生活と人権の視点から(長久講師)
    ③9月 課題図書3冊をそれぞれ選び独習。各7分程度で発表
     *『それぞれの「戦争論」』(川田忠明、唯学書房)
     *『戦争で死ぬ、ということ』(島本慈子、岩波新書)
     *『知っていますか?日本の戦争』(久保田貢、新日本出版社)
    ④10月 自衛隊・日本原駐屯地フィールドワーク
    ⑤11月 沖縄事前学習(1) 沖縄戦の歴史(長久講師)
    ⑥12月 沖縄事前学習(2) 米軍基地問題について(長久講師)
    ⑦1月  沖縄事前学習(3) 翁長知事陳述書感想交流・
                  『標的の村』DVD
    ⑧2月  2泊3日で沖縄フィールドワーク
    ⑨3月  これまでの学びの振り返り&ディスカッションとまとめ
    ⑩4月  卒業発表(個人発表)

  ◇大事にしたこと
   *1回1回の学びの場への問題意識をつくる
    ・裏カリキュラムの重視(事前課題―読む・書く)
   *変化(成長)を起こそう思ったら、目的意識的に量をきちんと
    準備する
   *書くこと、書きあうこと
    ・書くことは、考えること、自分や他者と対話することもである。
     言葉をにぎる。
    ・事前課題、毎回の感想文、卒業文集など、「書かせる」ことに
     執着する
    ・そして書きあったことを学びあう。高い相乗効果。
   *討論をかならずすること―集団学習の長所を最大限生かす

  ◇ゼミ生の変化
   *第1回ゼミ。ゼミ生の変化にまわりがびっくり。毎年開催に方針変更。
   *「沖縄にタダで行けるよ」で来た看護師さん。職場から「行って
    こい」がほとんど。
   *2015年度の第3回。「こういうことに興味ないっす」「選挙に
    行ったことない」というゼミ生。でも変化する。
    卒業発表テーマ「無知な自分からの脱却」「戦争体験を聞いて」。
   *教訓―きっかけは、「不純」「たまたま」「半強制」でもよい。
    社会の現実にぶつからせる。不条理。憤り。おかしさ。問題意識
    育つ力に。継続して議論する場。学びあう仲間がいること。刺激。
    ふんばる力に。社会や政治・平和問題での「自分の言葉」の発声練習。
   *もちろん、変化の仕方や力強さはそれぞれ。均等・均質でない成長。
    職場で学んだことを語りあう、生かす場や時間があるかどうかも左右。
   *事業所によってゼミ生派遣の温度差も…。現場はたいへんだけど、
    そういう場に送り出してほしい。なにがきっかけで変化をうながす
    かわからない。ねばり強く。

 3。対象(自分、他者、職場、社会、政治など)の変化をとらえるための心得
  ◇変化にも法則性がある
   ①量的変化と質的変化。コツコツとした、目立たない変化の積み
    重ねによって、目に見える質的変化が準備される。地道に。
    地味に。練習メニュー。鍛える。磨く。継続。繰り返し。目的
    意識的に量を準備する。

   ②肯定をふくんだ否定。否定を通じてものごとは発展していく。
    ダメだし必要。ただし、ご破算型・全面否定でなく。理解しつつ、
    ダメだし。伸ばすために評価する。うねうねとした変化を受容
    する力、見極める力。良し悪しあわせ持ちながら変化。

   ③矛盾が発展の原動力。ひとつの物事のなかに、相対立する傾向や
    要素がぶつかりあっている。たたかっている。それを矛盾という。
    ぶつかりあいのなかで、ものごとは動いていく。相反することが
    併存するのが現実。
    *自分のなかに「矛盾」をつくる(相手に「矛盾」をもってもらう)
     ・「こうありたい自分」と「いまの自分」とのぶつかりあい
     ・「めあて」になる事柄、「めあて」になる人をつくる。自己
      成長の目標と計画をもつ。
     ・ストレスは自分を成長させる糧にもなる
    *目標がなければ、矛盾は生じない。矛盾が次の発展の契機に。

 4。育つこと、育てるということ
  ◇育つこと
   *主体は自分(その人)。でもつながりのなかで。さまざまな環境
    のなかで。
   *自然発生的成長(枠組み内での伸び)と、目的意識的成長(矛盾を
    つくる)。
   *理解されること。他者からの適切な評価(自己の成長に関心を
    もたれること)。
   *自惚れることも大事(ただしそれをあけっぴろげにしない)
    「自分に惚れ、自分に自信をつける。そのことが、次のステップ
    に猛然と駆け上がるエネルギーとなるのである」
           (中沢正夫『ストレス「善玉」論』岩波現代文庫)
  
  ◇育てるということ
   *目の前の人(あるいは職場)の発達課題・成長課題を発見する
    ところから。→「種にもいろいろあります」
   *教えるということは、つまり学ぶこと。教えるほうも不完全。
    模索、工夫し続ける。
   *他者を育てることで、自分自身がさらに育つ。喜びや楽しさ。
    働きかけ⇔理解の前進。
   *若い世代が背負ってきた「時代の圧力」を理解の前提に。
   *世代間の違い―上の世代・下の世代。違いを楽しめるか。
    おもしろがれるか。
   *問題意識を聞く。場をつくる。議論する。納得を引き出す。
    信頼される。尊敬される。

   ■『学習する組織-現場に変化のタネをまく』
                 (高間邦男、光文社新書、2005年)
    *著者の高間氏が、NTT東日本の法人営業本部の役員に、イン
     タビューしたときのこと。「戦略は何ですか」と聞いたら、
     「学習機会をつくる」というのが答えの一つとして返ってた。
     「学習機会とは何ですか」とふたたび聞いたところ、その役員
     は、「それはピカピカ光る背中を持つ人間の周りをウロウロ
     できることですよ。しかし問題は、ピカピカ光る背中を持つ
     人間が法人営業に20人しかいないことかな」と言ったそうです。
     著者はその答えに驚かされて、また納得し、こう書いています。
     「人は自分の接する社会、つまり周囲の人や本、インターネット、
     様々な経験などから主体的に学習する。その中でも他者との相互
     作用から一番多くを学ぶと私は思う」「今の若い人たちは、子供
     の時分から学校を出るまでの成長過程で接する人物の数が、昔よ
     りも少ない傾向にある。・・・その結果、客観主義による勉強は
     してきたが、人々との相互作用で行われる社会構成的な学習機会
     が少ないので、社会性が低くなる傾向があるのではないだろうか」
     「問題は、ピカピカ光る背中を持つ人間に運がよくないとめぐり
     合えないことである

   *つまりどんな人と一緒に働いているか、出会うか。
    自分はめあてになりえているか。

  ◇すぐれた実践を一般化する(話す・書く。共有財産に)。
   ただし絶対化しない。
  ◇育てる人以上に、自分が自分の成長に貪欲か。自己投資しているか。
   教育欲。
  ◇最終目標は、相手が自分から離れていくこと。自分で自分を伸ばす
   力がつく。

二。育ちあう職場、とはどんな職場だろう―考える材料に
 
1。個人と組織の目標の設定(連動していることが望ましい)。
   そこへの参画。
  ◇役割・使命の共有。共有とは、自分のこと・自分のものだと思って
   いる状態。当事者。
  ◇目標決定プロセスへの主体的参画(民主主義)
   *目標設定に当事者を参画させずに、あとから主体性がないといっ
    ても、要求するほうが無理。参画するためには民主主義が必要。
    1人ひとりの尊重。「おまかせ」からの脱却。
   *ただし、それぞれ認識、問題意識がちがうので簡単ではない。
  ◇目標・使命を(言葉で)節目節目で確認・検証し、みがいていく
   不断の努力
  ◇学習機会、場、材料、時間の保障

 2。民主主義を職場にしみ込ませ、育ちあう土壌を豊かに 
  ◇決定的なのは、表現(とくに言葉による伝えあい)の自由
   *自分の言葉をもって、意思決定に参画すること。
  ◇しかし、職場のなかにはさまざまな「力」が働いている
   (そしてそれはなくせない)
   *上司と部下。役職とそうでないひと。知識のある人ない人。
    経験のある人ない人。先輩と後輩。年齢。雇用関係。ジェンダー。
    医師と看護師など。 
   *強者と弱者、声の大きいひと小さいひとがかならずいる、
    ということを認識する
   *人間集団の力関係を完全にフラットにすることはできない
    (家庭でも職場でも)  
   *「力」をもっている側の姿勢(民主主義)が問われる。
    日頃のコミュニケーション大事。
  ◇一方通行。発言者偏り。聴く姿勢なし。意見受けとめず。人間関係悪い。
   ←参画できない。
   *職場のなかの関係性・風通しがよくなると、自己を否定される
    恐れがなくなるので、その場が安全になる。様々な異なる意見が
    表出。議論が生まれる。「どうせ」「けっきょくは」状態から
    抜け出す。冷→熱。エネルギー。民主主義ってこれだ(疲れるけど)。
  ◇1人ひとりの「力量」「認識」は横並びではない。組織はかならずひし形。  
   *動的にとらえながら、すべての職員の成長に目配せする努力。
    議論と学びの場を。
  ◇「~しあう」関係性(積み重ねにより培われる)
   *伝えあう、学びあう、話しあう、高まりあう、認めあう、気づきあう、
    支えあう、助けあう…。1人ひとりが均質ではないからこそ、集団の
    力はダイナミックに変動。

 3。教育活動はたいへん。だからこそ。
  ◇成長するのは職場のなかだけではない(外へ外へ)。職場のなかの
   教育を前提としつつ。
  ◇読んだ本(論文)を紹介しあう文化の再構築。
  ◇人間の成長や関係性は、思いどおりにいくことのほうが少ない。
   待つ力。腰をすえて。
  ◇エネルギーやストレスのかかる姿勢。グチを言える人を2人
   はつくっておく。
   *もちろんあなたも誰か2人のグチの聞き役をする
  ◇ちがう世界の楽しみや喜びをたくさん知る―趣味や生きがい
   *「自分の顔」をたくさんもっておくほうがよい
  ◇リフレッシュするときは思いっきりリフレッシュする―職場から離れる
  ◇労働組合は、育ちあいのとても大切な舞台
  ◇理念をかかげ、社会的・政治的課題にも取り組む民医連的使命と
   「おおいなる矛盾」