長久啓太の「勉客商売」

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『民主主義』(文部省著・西田亮介編) 書評

*『学習の友』6月号に書いた、
『民主主義』(文部省著・西田亮介編、幻冬舎新書、2016年1月)
の書評です。そのまま転載します。

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 「そのとき」「その時代」でしか書けないような熱を
おびた言葉にでくわすことがあります。本書は民主主義
を根本から、その価値を繰り返し説きながら、こうしめ
くくっています。
 「民主主義の理想は遠い。しかし、そこへいたるため
の道が開かれうるか否かは、われわれが一致協力してそ
の道を切り開くか否かにかかっている。意志のあるとこ
ろには、道がある。国民みんなの意志でその道を求め、
国民みんなの力でその道を開き、民主主義の約束する国
民みんなの安全と幸福と繁栄とを築き上げていこうでは
ないか」
 民主主義を実現させていくのは、なにより国民の力で
ある。民主主義の根本は人間尊重の精神である。こう力
強く言いきられると、なんだかとても爽快になります。
まして、それが若い人たちへの国からのメッセージであ
るとすれば、なおさらです。本書は1948年~195
3年に中学・高校用の社会科教科書として文部省が作成
したものです。今から考えると信じられませんが。「民
主主義の精神は人間の尊重」であること、「あらゆる人
間生活の中にしみこんで行かなければならない」ものと
して民主主義が豊かに語られます。この言葉の強さの背
景には、人間の尊重、個人の尊厳とは対極にあった「戦
争し続けた国家」からの決別の思いが込められているの
です。
 いま安倍政権のもとで、「民主主義ってなんだ! これ
だ!」の言葉が多くの人、とりわけ若い人のなかで発せ
られることになりました。いま、民主主義が問われてい
ます。戦後まもない時代、民主主義が渇望されたときに
書かれた本書は、いままさに、読むものに迫るものがあ
ります。
 なお本書は、径書房から1995年に出版された『民
主主義 文部省著作教科書』のエッセンス版であり、全
章を読みたい方は、ぜひその原本をお読みいただきたい
と思います。とくに、本書でかなり省略されてしまった
「民主主義と労働組合」は素晴らしい労働組合解説にな
っています。