長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

『驚きの介護民俗学』を紹介して

今日(7日)のソワニエ看護専門学校での授業で、
『驚きの介護民俗学』(六車由美、医学書院、2012年)を紹介しました。

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民俗学を専攻した著者が介護職員として、聞き書きを中心に
高齢者の記憶と体に染み込んでいる文化や物語を記録する。

介護現場は民俗学の宝庫というのはその通りだと思った。
エネルギーは「驚き」。高齢者へのリスペクト姿勢にも共感。

また、活動家の人生を聞き書きすることも大事なんだよなあ、
書き残さなければ全部埋もれてしまうんだよなあ、
とも改めて感じました。


本を紹介しての、ソワニエの学生さんの反応を紹介。

■私も介護の仕事をしていました。利用者と話することで、
自分自身成長してきました。便利な世の中になりましたが、
生活の知恵を教わり、自然とは・・・など考えることがあり
ました。暑かったら水をまいたり、など・・・。業務におわ
れていると、利用者から、声をかけられたりしていました。
今思うと、心のゆとりを与えてくれていた。本当に感謝です。

■私はおばあちゃん子なので、おばあちゃんからいろんな
話を聞いていました。戦争のことや、昔の小学校時代の話、
昔は平井のあたりも電車が通っていたことなど。おじいちゃ
んはもう亡くなってしまいましたが、戦後、シベリアに抑留
され、生きて日本に帰ってきたそうです。おじいちゃんの
口から、その時の話を聞く機会がなかった。今となっては
後悔しています。

■子どもの頃に、おばあちゃんの戦争体験を聞いたことが
あります。小学生だった祖母が小さい妹をおぶって逃げた
ことは、当時の私には衝撃的で今でも覚えています。自分
の知らなかったことを教えてもらうと、考えの幅が広がっ
たり、また深まった新たな自分を見つけられるような気が
します。

■「人の体験は、聞かなければうもれてしまう」という言葉
が、とても心に残っている。利用者の情報収集はとても
難しい。現在は核家族が増えているため、家族は知らない
ことが多い。聞き出すことだけに力を入れてしまうと尋問
になってしまい相手と壁ができてしまいなかなか聞き出せ
ない。1つでも多くの情報を得て、ケアにつなげていきたい
と思えば、焦りが相手に伝わり、身構え、口を閉ざしてし
まう。しかし、日常の何げない会話の中で得られる情報は、
とても豊富で今後のケアにつながるものが多いため、メモ
とペンを持っての情報収集はやめた。



以下は、本より引用メモです。

「民俗学の研究対象となるのは、特別な知識や技術ばかりでなく、
むしろ生活全般にある。しかも、聞き書きによって過去の民俗事
象や生活史を明らかにしようとするのが民俗学であるから、生活
歴が長い高齢者ほど、多くの経験と民俗的知識のある、調査者に
とってはありがたい話者となるのだ」

「利用者は、聞き手に知らない世界を教えてくれる師となる。日
常的な介護の場では常に介護される側、助けられる側、という受
動的で劣位な『される側』にいる利用者が、ここでは話してあげ
る側、教えてあげる側という能動的で優位な『してあげる側』に
なる」

「民俗学が保存し、次世代に継承していこうとするのは、民具や
芸能ばかりではない。大きく言えば、民俗伝承全般に関わる人々
の記憶を掘り起こし、それを民俗資料として保存し、継承してい
くのが民俗学の役割だと言えるだろう。したがって聞き書きも、
話者の言葉を書きとめ民俗誌にまとめることにより、その記憶を
文字として保存していくことになるし、後の研究者にとってはそ
れがひとつの民俗資料になっていくのである」

「聞き書きをスムーズに進めるためにも、深いところまで話を掘
り下げるためにも、そして何よりも利用者自身が気持ちよく心豊
かに話をするためにも、決して欠かすことのできない、聞く側の
持つべき重要な態度が『驚き』である」

「聞き書きをしていてよく経験することなのだが、本人はたいし
たことがないと思っていたことでも、私たちにとってはとても面
白かったり、意味をもっていたりすることは多い。そうした私た
ちの反応を目の当たりにすることによって、話者本人があらため
て自分の人生の価値を発見していくのである」