長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

「思いを引き出す技を取り戻す」

『学習の友』8月号論文、
「“物言えぬ社会”と憲法・表現の自由」(佐貫浩)よりメモ。
32P~33Pの部分。


表現の自由は、二重の構造を持っています。
1つは、縦軸の、上からの権威や権力との関係
(それに対する対抗)としての表現の自由です。
もう1つは横軸における表現の自由です。今日
ではこの2つの局面の不自由さが相互に補完し
合い、強め合っているのです。
 横の関係における表現の自由が、大きく抑制
され、表現をシュリンクさせています。表現と
は人と人との間に、自分を登場させる行為です。
その空間がその表現を励ます仕組みを持たず、
さらに異質性へ攻撃の矛先を向ける性格をもつ
とき、表現は、それが縦軸における抵抗に向か
う前に、挫折させられ、その力を奪われてしま
います。そして公共的な空間に、新しい価値を
提示し、権力に異議申し立てをする力や勇気を
奪われてしまいます」

「自己の人格をそのなかに刻み込んだ、自己の
尊厳の中核としての自己の思いをそのなかに組
み込んだ表現を、まず横の関係のなかにおいて
どう交流し合うかが問われています
 ジュディス・ハーマンの『心的外傷と回復』
(中井久夫訳、みすず書房、1996年)は、戦争
神経症、レイプ、虐待、いじめ、等々の心的外
傷を背負わされた人々、暴力によって安全を奪
われ、自己の表出を極力避ける閉寒の中にしか
生きられず、その意味ではまさに表現を奪われ
た人々、自分を他者との関係のなかに押し出す
勇気も自信も奪われた人々の病理を解明してい
ます。そして、その中に、他者に自分を表面し
て良いのだ、自分の思いを表明して他者との関
係を紡ぎ直しても良いのだ、そうしても攻撃さ
れない安全と共感の空間がいまあなたの周りに
作られつつあるのだという表現回復の場と安心
を提供し、人間性の自己回復の過程を紡ぎ出し
ていく方法を『ケア』として提起しています。
私たちは、今こそ、その方法に依拠して、各人
のなかにある根底的な人間としての思いを引き
出す技を、取り戻す必要があるのです。
 個の心理の内奥まで及んで侵された表現の自
由を、まさにその人格の根底から回復していく
戦略を、そしてそれを縦の関係においる表現の
自由へとつなぎ合わせていく方法を、どう創り
出していくのか、いまそういう共同を日本社会
に創り出せるかどうかが問われているのではな
いでしょうか」


後半の「技」「戦略」という表現が、
そうだな、と思いました。

これって、学校の教育空間への警鐘の文章ですが、
労働運動やさまざまな社会運動の組織にも
あてはまることですよね。

自分たちの組織のなかで、自由な表現ができなければ、
権力に異議申し立てをする力なんて育ちませんし、
その勇気を支えあう人間関係はつくれません。

佐貫さんの大事な指摘と受けとめました。