長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

『健康格差―不平等な世界への挑戦』

『健康格差―不平等な世界への挑戦』
      (マイケル・マーモット著・栗林寛幸監訳・野田浩夫訳者代表、
                    日本評論社、2017年8月)
を読み終える。

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WHOにおける健康の社会的決定要因(SDH)の
報告づくりを主導した公衆衛生の医学者。
広い見識とヒューマニズム、そして科学的思考。
とても勉強になる。
訳者はほとんど民医連のお医者さんたち。民医連すごい。


以下、自分用のメモ。

「せっかく治療した患者を、なぜ病気の原因となった
環境に戻すのか?」(3P)

「医師として私たちは病人を治療するように訓練され
ている。当然だ。しかし、行動と健康が人々の社会的
条件に結びついているならば、社会的条件を改善する
のは誰の仕事であるべきかと私は自問した。医師が、
少なくともこの私が関与すべきではないのか? 私は人
々の健康の改善を手伝いたいと思うからこそ医師になっ
た。人々が病気になったときに治療だけすることがせ
いぜい一時しのぎでしかないとしたら、医師は人々を
病気にしている条件の改善に関わるべきだ」(6P)

「不平等の底辺にいると、活力も生活のコントロール
も奪われ、結果として健康が損なわれる」(8P)

「社会的地位と健康の関連を私は健康の社会的勾配と
名づけた」(13P)

「ストレスを引き起こすのは、仕事における要求の高
さではなく、要求の高さと裁量の低さの組み合わせだ
った。・・・上にいる人は心理的な負担は大きいが、裁量
の余地も大きい」(16P)

「自らの生活・人生に対するコントロールということ
が、裕福な国では社会的地位の高い人のほうがより健
康である理由を説明する仮説として優勢になった」(16P)

「自己裁量の範囲が健康にとって重要」(16P)

「生活に対するコントロールを奪うことは、ストレス
を与え、精神的・身体的な疾患のリスクを増大させる。
エンパワーメントの政治的次元は、あなた自身、あな
たのコミュニティ、そしてあなたの国のためにあなた
が発言できるということにかかっている」(48P)

「社会経済的階層における地位が低いほど、人々は自
分の生活をコントロールしにくい」(49P)

「健康の不平等は、人々を病気にする社会的条件から
生じる。一方、医療というのは病気になってしまった
人の治療に必要なものだ。医療の不足が不健康の原因
でないことは、頭痛薬の不足が頭痛の原因ではないの
と同じである」(75P)

「エンパワーメントとは、人生に意味を与える基本的
自由を謳歌する能力を発達させることだ」(114P)

「教育は、・・・あなたが十分な情報に基づいて生き抜く
力を高め、自分の社会や文化の価値を学び、より広い
コミュニティと自らの人生を左右する政治的決定に参
加し、自由を行使し、権利を主張できるようになる」(146P)

「力を持つ者は、夫であれ支配的民族集団であれ専制
的権力者であれ、弱者を餌食にする」(156~157P)

「劣悪な労働環境は健康の不公平の主要な原因である」(173P)

「高い要求と低い裁量、努力と報酬の不均衡、社会的
孤立、組織の不正義、雇用不安、交代制勤務。これら
は単独でも病気のリスクを増大させる。混ぜ合わされ
ると、有毒なカクテルとなる」(181P)

「労働環境を改善する一つの方法は、労働者を組織す
ることだ」(192P)

「失業は健康を害し、仕事は決定的な重要性をもつ。
仕事が『良い』性質のものであると、人に力を与え
る」(197P)

「最低所得には、食事と住まいに必要なものだけでな
く、尊厳のある生活を送り、社会に居場所を持つため
に必要なものも含まれる。高齢者は移動のため、社会
に参加するため、孫にプレゼントを買うためのお金が
必要だ」(212P)

「緑のある場所に住んだり、緑に親しんだりすること
が精神衛生に良いという根拠が豊富にあることがわか
っている。いまや世界中で大半の人が都市に住むよう
になったので、重要な問題は都会の緑地だ」(250P)

「健康の社会的決定要因についての取り組みが、人々
に力を与えるならば、人々に自らの生活をよりコント
ロールさせるための一つの方法は、必要なときに所得
水準を上げることだ。ゆえに、社会的保護として知ら
れる、高齢者、遺族、障がい者、健康、家族、積極的
な労働市場プログラム、失業や住宅政策などへの支援
に対して国家がどれだけ支出しているかを見るべきだ」(274P)

「大きな不平等の存在により、私たちはますます貧困
層と社会的に排除された人々が中間層とは違う世界に
住み、富裕層はそれ以外の人々とは別世界に住んでい
ると思うようになる。学校、世帯構成、移動手段、ス
ポーツジム、休暇、態度を分離していくのだ。
 社会生活の鍵は、社会の仲間への共感とつながりと
いう心からの気持ちだ。上層、中間層、下層に仕切ら
れた分断生活は、社会のこの不可欠な構成要素に損害
を与える」(280~281P)

「特に難しいのは、貧困層には情報がないからである」(334P)