長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

「書いて伝える・文章教室」 レジュメ

2日(土)に開催した企画のレジュメです。


一。本日のポイント
 
①文章を書くときの心構えを身につける
 ②伝わる文章の基本を知る
 ③実践トレーニングをしてみる

二。活動における「書いて伝える」比重
 
1。書くことの効用(話すこととの比較)
  
◇話すことは、瞬間で消える。形に残らない。
   熱は伝わりやすい。キャッチボールできる。
  ◇不特定多数の人に読んでもらえる(公共的営み)。
   時間や空間を選ばない。
  ◇正確に伝えたい。

 2。草の根のメディア・伝えあいの重要性が増している
  ◇職場や地域、社会で起きていることを「知ってもらう」ためには
   *マスメディアが伝えない情報、現場の声を伝える。
    集会や企画などの告知。
  ◇自分の分身としての「組織者」(ニュースやチラシ)

三。文章を書くうえでの「心構え」
 
1。読者像をつねに考える
  ◇誰に読んでほしい文章なのかの、豊かなイメージをもつ

   「書くとき、目の前に読者がいないときも、僕たちは
   仮想の読者を想定して書いています。どんな場合でも、
   僕たちは想像上の読者に向けて語りかけている。(中
   略)・・・自分のなかにいろいろなタイプの読者像を持っ
   ていること。それが『読みやすい文章』を書くという
   ときの1つの条件じゃないかと思うんです。だって、
   少女が読者だと思うと、『少女に通じる言葉づかい』
   をするわけでしょう。お爺さんが相手だったら、『あ
   る年齢以上の人なら当然これくらいのことは知ってい
   るわな』という歴史的事実を論じたり、人名を挙げた
   り、あまり使わない語彙を動員したりすることができ
   る。僕はこの読者像の多様性ということが、文章を書
   く上でものすごく大切なことじゃないかと思うんです」
       (内田樹『街場の文体論』文春文庫、2016年)

 2。相手はあなたの文章を読みたいとは思っていない
               ―だからこそ技術をみがく
  ◇有名作家の文章や、評価の確定した古典などは、読者が
   読みたくてそれを手にする
   *少々面白くなくても、難解でも、読者は最後まで読もうとする。
  ◇私たちの文章は、そういう読者の「努力」にいっさい期待をもてない。

   *「送り手」と「受け手」には、かなりの距離と温度差が
    あることを認識しよう。

    「広告を発信する側としては、伝えたいことはたくさん
    あって、一般の人たちも当然注目してくれるものと思い
    がちです。ところが、受け手側というのは、発信者のそ
    んな思いなど、ほとんど意に介していません。なぜなら、
    日常生活のなかでは、自分の身の回りの出来事や問題で
    精一杯になっているからです。人は自分の心にバリアを
    張っていて、無意識のうちに外部情報を遮断しています」
   (佐藤可士和『佐藤可士和の超整理術』日経ビジネス文庫、2011年)

    「メッセージを相手に伝えるというのは、本当に難しい
    ことです。伝わっているはず、と自分では思っていても、
    実際には伝わっていないことのほうがはるかに多いもの。
    全体の半分くらい伝わればいいほうで、100%わかっ
    てもらうのは至難の業といっていいでしょう」(同上)

  ◇つねに読み手のことを考える、読み手に配慮する。
   そして自分の伝えたいことがある。
   *これが文章上達の究極の原動力です。シンプルですが。


四。伝わる文章を書くために(本日の中心点)

 
【ウォーミングアップ例題】
  *とあるチラシにダメだししてみよう(チラシをつくった方スミマセン!)

 ■参考文献『すぐできる! 伝わる文章の書き方』
             (赤羽博之、JMAM、2013年)

 1。短く書く
  
◇伝わる文章を書くためには、「短く書く」が第1歩
  ◇なぜ「短く書く」ことが大事なのか
   ①読み手への負担とならないようにするため
   (ダラダラ長い文章は敬遠される)
   ②リズムよく読んでもらうため(読み続けてもらう)
   ③内容が伝わりにくくなる(長文だと内容が盛り込まれすぎてしまう)
  ◇つねに「最小の文字数で書く」を目指そう
   *書いた文章には、ムダな言葉がたくさん含まれるのが普通。
    しっかり読み返して「短くならないか」「1つの文には1
    つのメッセージ」の原則を心掛けよう。

 【例1】
   「日本は戦後、基本的人権を尊重する日本国憲法の下で、
   70年を超えて平和を築き上げてきました」
    ↓
   「戦後72年。基本的人権を尊重する憲法のもと、日本
   は平和を築き上げてきました」

 【例2】
   「今後、監視社会が進み、国民が自由にものを言えなく
   なっていくことが危惧される中で、戦前の歴史から事実
   を学び、当事者として考え、どのように行動していくべ
   きかを、一緒に考えていきましょう」
    ↓
   「監視社会が進み、自由にものを言えなくなっていく恐
   れがあります。戦前の歴史に学び、当事者として考え、
   どのように行動していくべきか、ご一緒に考えましょう」

  ◇書かなくても意味の通じる言葉は省いていく
  ◇一文を短く書く。
   ◎「天気は快晴、今日はいよいよ学習会当日だ」
     →「快晴。いよいよ学習会当日だ」
  ◇長い文は2つに分ける。「、」を「。」に変える。
   意味の切れ目に注目する。
  ◇書き出しのキレをアップさせる。
   *書き出しの一文をできるだけ短く。結論から書くと切れが
    さらにアップ。
   ◎「講師の話がとてもおもしろく、ふだん考えもしない
    視点がいくつも得られ、その後の参加者との交流もは
    ずみ、本当に来てよかったと思った」
     ↓
    「本当に来てよかった。講師の話もおもしろく、ふだ
    ん考えない視点がいくつも得られた。その後の参加者
    との交流もはずんだ」

  ◇書き出しに、相手の知らないような言葉をぶつけない。
   その後読んでもらえなくなる。

 2。同じ言葉は省く
  
◇同じ言葉が1つの文の中で重なったら、無条件でどちらか
   一方の削除を考える。
   ◎「目標の組合員20人拡大をめざして奮闘中ですが、
    今年こそは拡大目標達成したいです!」
     ↓
    「目標の組合員20人拡大をめざし奮闘中。今年こそは
    達成したいです!」

  ◇段落の中での重複もできるだけ避けたい。簡潔な文章に近づくステップ。
   ◎「私が労働組合の執行委員になったのは3年前です。
    労働組合に入ってから8年がたち、年々職場の状況が
    悪くなってきていると感じたからです」
     ↓
    「私が労働組合に入ったのは8年前。その5年後に執
    行委員になりました。年々職場の状況が悪くなってき
    ていると感じたからです」

  ◇同じ意味の言葉の重複も省く
   ◎「~など7本の法案を1つにまとめ、一括法案として
    秋の臨時国会に提出する方針」
     ↓
    「~など7本を一括法案として、秋の臨時国会に提出する方針」

   *こんな表現に注意しよう。「読んだ読者」「もう一度再発見」
    「目指す目標」「まだ未定」「あらかじめ予約」「一番最初」
    「あとで後悔」・・・

  ◇「の」の連用は2回まで
   ◎「安倍政権のアベノミクスの問題点の多くは」
    →「安倍政権によるアベノミクスの問題点の多くは」
   ◎「正規の職員の賃金の場合」→「正規職員における賃金の場合」
    *「~が、~が」なども注意。ほかの言葉に置き換える。

  ◇漢字、ひらがな、カタカナの連続に注意
   *読みづらくなる。常に気を配りましょう。
   *漢字の目安は「なるべく5字以上続けて使わない」と覚えておこう
    ◎「年々実現困難な状況」→「年々実現が困難な状況」
    ◎「非正規労働者等の」→「非正規労働者などの」
    ◎「労働組合執行委員を務めている」
       →「労働組合で執行委員をつとめている」
   *漢字が多い文書は見た目にも威圧感があり、読む気に
    なりにくい。「文章上達」を説く本はたいてい、「漢
    字3、ひらがな7」が読みやすい配分と書かれている。
    書いていて「漢字が多いな」と思ったら、手直しして
    みてください。
   *ひらがな、カタカナも、極端に続くと読みにくくなる。

 3。言葉を丁寧に選ぶ
  
◇文体を統一する。「だ・である調」と「です・ます調」。
   *それぞれのメリット、デメリットがあるので、書く
    内容や対象によって使い分けよう。

  ◇話しことばを使わない
   ◎「みんなで団結して」→「みな(皆)で団結して」
   ◎「ちゃんと話を聞いてから」
       →「きちんと(しっかりと)話を聞いてから」
   ◎「貧困の実態にすごく驚いた」→「貧困の実態にとても驚いた」
   ◎「職場の状況が見える位置にいた」
          →「職場の状況が見られる位置にいた」

  ◇「子どもっぽい」表現に注意する
   *「楽しかったです」「~と思いました」などは、もうひと工夫
    できないか? と考える。

  ◇回りくどい表現をさける
   *二重否定の言葉は避ける。
   ◎「これほどの人権侵害にあうのなら、辞職を考えないこともない」
    →「これほどの人権侵害にあうのなら、辞職を考えるかもしれない」
   ◎「責任問題にならないとも限らない」→「責任問題になるだろう」
   ◎「むこうの言い分も、わからないことはない」
                →「むこうの言い分も、理解できる」

   *回りくどい文の「主犯格」
          ―「という」「について」「方向で」「に関して」
   ◎「目標に向かってベストを尽くすということがとても大切だ」
     →「目標に向かってベストを尽くすことがとても大切だ」
   ◎「その問題については、ほぼ決着がついている」
     →「その問題は、ほぼ決着がついている」
   ◎「来年度、方針化する方向で検討を進めてください」
     →「来年度、方針化する検討を進めてください」
   ◎「新人研修に関しては、担当にまかせてある」
     →「新人研修は、担当にまかせてある」

 ◇文章は「簡潔第一」です。いつもそこを念頭に。

  【言葉をたくさん知っていること―選択肢が広がる】
   *聞く、読む、話す、書くなどを通じて豊かな語彙力を
    育てる。とくに書き言葉にふれることが大事。さまざ
    まな本をたくさん読む。文章がうまい人の表現をまねてみる。

 4。より具体的に書く
  
◇企画の報告を記事(ニュース)で伝えるなど
   *読み手に追体験してもらうことが目的に。そのためには
    具体的に書くこと。抽象的な書き方では、読み手はその
    場を想像できない。
   *その場の空気感を伝える。その場にいた人のコメントを載せる。
   ◎「先日、組合員がひとり増えました!」
     ↓
    「先日、○○職場の方に○○と○○で組合へのお誘い。『人員
    不足で職場の空気もピリピリしているし、有休もとりに
    くい』などの話になり、その思いをぜひ一緒に要求にして
    いこうと訴え、組合に入ってくれることになりました!」

  ◇自分自身の分身ともいえる言葉を書く
   *自分にしか(その人にしか)書けないことを大事にする。

    「作文の秘訣を一言でいえば、自分にしか書けないこ
    とを、だれにでもわかる文章で書くということだけな
    んですね。いい文章とは何か、さんざん考えましたら、
    結局は自分にしか書けないことを、どんな人でも読め
    るように書く、これに尽きるんですね。だからこそ、
    書いたものが面白いというのは、その人にしか起って
    いない、その人しか考えないこと、その人にしか思い
    つかないことが、とても読みやすい文章で書いてある。
    だから、それがみんなの心を動かすわけです」
     (井上ひさし『井上ひさしと141人の仲間たちの
               作文教室』新潮文庫、2002年)
 
    「ルポ=ライターが行くまでもなく、そこにいる人こ
    そ最も深く事実を知っているのですから、その人々が
    ペンを持てば一番いい。そのためには、ほんのちょっ
    とした技術さえ知っていればいいのです」
     (本多勝一『日本語の作文技術』朝日文庫、1982年)

 5。リズムと流れを考える
  
◇句読点は、文章のリズムや流れをつかさどる“名脇役”。考え抜いて打つ。
   *最後に読み返して、リズムや流れに違和感があれば、
    句読点の位置を再考してみる。
   *読点「、」については、読み間違いを誘発することもあるので注意。
   ◎「S新聞社が書く仕事を目指す女性を支援」
               (2通りの解釈ができてしまう)
     ↓
    「S新聞社が、書く仕事を目指す女性を支援」

  ◇改行、段落を意識する
   *1段落は150字程度まで。それ以上になると読者に負担を強いる。

   *「段落は、ここで思想がひとつ提示されたことを意味している」
    「改行は必然性をもったものであり、勝手に変更が許されぬ点、
    マルやテンと少しも変わらない」
           (本多勝一『日本語の作文技術』朝日文庫、1982年)

 6。書いた文章を読み返す
  
◇伝わる文章は「推敲」から生まれる。丁寧に読み返し改良を加えよう。 
   *「書く」と「直す」は常にペアで考えるようにしよう。
    文章は書けたところが出発点という心構えで。
  ◇客観視の方法 
   *書いたものをプリントアウトする。パソコンのモニターで
    文章を読む「書き手」から、用紙に印刷されたものを読む
    「読み手」へと視点が切り替わる。
   *音読する。とくに文章の流れやリズムの良し悪しの判断には有効。 
    死角となっていた文章上の問題に気づくチャンスが広がる。
   *時間を置いてから読む。心身を一度クールダウンし、
    第三者的視点を呼び覚ます。
   *第三者に読んでもらう。まわりの上司や仲間にチェックを依頼する。
    大量のダメだしはあなたへの愛(期待)の表れ。

五。チラシ・ニュースづくりにおける文章の基礎
 
1。チラシのメカニズム
  ◇送り手のメッセージ
   *何が、どこで、いつ、どのように、対象は、メリットは
   *つねに「受け手」をイメージしながらつくる。ユーザビリティ
   (見る人への配慮)がデザイン・レイアウトの条件。
  ◇チラシの構成材料は、大別すると2つしかない
   ①文字(キャッチコピー、見出し、情報、解説)
   ②絵(イラスト、写真)

  ◇受け手の反応 
   *イメージの印象、情報内容の理解、好感・共感・前向きな疑問、 
    関心と行動
   *メッセージに人の心を動かす価値がなければ、人は動かない。

 2。キャッチコピーの役割
  ◇語呂がよく、好奇心を起こさせる 
   *キャッチコピーは、見た人に、すばやく好奇心や問題関心
    を起こさせるものであることが必要。読むには一瞬といえ
    ども時間が必要であるため、キャッチコピーは簡潔で、語
    呂のよいものが適している。コピーライターという職業が
    あるぐらい、この点も重要。
   *文字は、飾らなくても十分美しい(とくにひらがな)ので、
    飾り文字はできるだけ避ける。飾るのはイラストや写真の役目。

 3。文章を読んでもらうには
  ◇読みやすいレイアウトは前提
   *「意義・任務」「押しつけ」型ではなく、相手の気持ちに
    呼びかける姿勢で
   *フォント(書体)で印象はずいぶん変わる。デザインの
    大事な要素。文字がつぶれるようなフォントは避ける。
    読みやすさが最優先。
   *文章は囲みや罫線のギリギリから始めないようにする
    (余裕をもたせる)

  ◇構成力は、バランス力
   *1枚のチラシにより多くの情報を入れたいのが一般的な
    傾向。しかし、情報がめいっぱいのチラシ(「埋め尽く
    し」という)は敬遠される。とくに字がびっしりのチラ
     シは受け手に圧力をあたえ、まず読まれない。

 4。ニュース記事・文章の基本
  ◇記事の形式 
   *活動報告、お知らせ、論考・論文、読者の投稿、人物紹介、
    インタビュー記事、座談会、対談、アンケート調査、
    ルポタージュなど
   *テーマ・目的にそって、どういう形式の記事にするかが決まる
  ◇文章の基本ポイント
   *5W1H(いつ、だれが、どこで、なにを、なぜ、いかに)。
    記事やニュースの内容によって、それぞれのウエイトが変
    わってくる。
   *「書き出し」を工夫し力を集中する。読者を引きずり込み、
    続けて読んでもらうため。

 5。見出しづくりのポイント
  ◇見出しの重要性
   *見出しは、その記事を読むかどうかを読者に判断させる
    最初の決め手。とくに忙しい現代社会では、まず目に入
    る「見出し」の重要性は高まっている。
   *どういう見出しを立てるかは、記事の内容と編集者の
    感度・センスによる
  ◇見出しを考えるポイント
   *見出しは大きくわけて2種類。ひとつは、記事内容を端的
    に表現したもの(代表例は新聞の見出し)。もうひとつは、
    本文への誘導をねらった見出し。
   *記事の内容にない見出しは避ける。長い「見出し」は 
    「見出し」ではなくなる。
   *「主見出し」に「○○集会に○○名が参加!」など、中身を
    伝えないものは避ける。それが読者の知りたいことではな
    い。「みんなの力で○○を達成しよう!」など、使い古され
    た一般的なスローガンも心に響かない。新しい言葉を使う
    努力・探求を

六。SNSの文章術
 
◇Twitter、Facebook、LINE・・・ 
 ◇これまで押さえてきたポイントを応用する
  *読み手のことを考えながら書く。ひとりよがりにならない。
 ◇SNSは公共空間。誰がみているかわからない。言葉に責任をもとう。
 ◇日々の書く訓練として。SNSでトレーニングしよう。

七。実践トレーニング
 
◇以下の文章を自分なりになおしてみよう。
  *言葉の入れ替えなどもありです。

   「人は誰もが年をとっても、病気や障害によって介護が
   必要になっても、住み慣れた自宅や地域で自分らしく安
   心して暮らし続けたいと願っています」

 ◇キャッチコピーをつくってみよう

 ◇見出しを考えてみよう

以上。