長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

広島で最低賃金の問題を講義

きのう(1日)は、
広島県労連の「パート・臨時・嘱託労組連絡会 春の行動」での
講師仕事でした。10時から。最低賃金がテーマでした。

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最低賃金の問題は、なにより人権・尊厳の問題として
とらえることが大事と強調。
予定にはなかったグループディスカッションも
勝手に組み込みました。みなさんしっかり交流しておられました。

以下、講義のレジュメです。


はじめに:あるシングルマザーさんとの関わりで

一。労働者は何と引きかえに賃金をもらうのか
 1。労働契約とはなにか

  「労働契約において、労働者の主たる義務は労働提供義務
  であり、使用者の主たる義務は賃金支払い義務である」
                (有斐閣『労働法』より)

  「労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払わ
  れる者」              (労働契約法2条)

 2。時間を切り売りしている
  ◇労働者といっても、それぞれには違いがいっぱい
   (違いは目に見えやすい)
   *職種、仕事内容、雇用形態、性別、能力、資格、民間・公務・・・
   *違いをひとつひとつ取り除いていくと・・・。残るのは、自分の
    労働力を時間決めで使用者に販売している(使わせている)、
    という点。「使わせ方」にルールをつくる必要。
  ◇「人たるに値する生活」(労働基準法1条)。そのためには
   ゆとりが必要。
   *ゆとりとは、「当面の必要を満たしたあとに、自由に使うこ
    とが出来る空間・時間や体力、他のことを考えるだけの気力
    があること」(三省堂『新明解国語辞典』第7版)
  ◇時間は有限。1日24時間。1年365日。平均で80数年の寿命。
   *「自分の時間」の価値はみな平等。あなたの時間の価値と、
    私の時間の価値は同じ。でも雇用形態などで、時間当たりの
    賃金単価や待遇には大きな格差が。これは差別。
   *8時間労働制は労働者の人権のかなめ。自分の時間の確保。
    健康で文化的に生活する最低限のライン。そして8時間労働
    の収入によってのみ生活できること。8時間働いて得た賃金
    で生活できないとしたら、そうしたものは権利とはいえない。
  ■フルタイムで働いて、現在の最低賃金で「人たるに値する生活」が
   営めるだろうか。

  ◇私たちは人間!(尊厳がある。取り替え可能なモノや道具ではない)

    「何人も、社会の一員として、社会保障をうける権利を有し、
    かつ、国家的努力および国際的協力を通じて、また、各国の
    組織および資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な
    発展とに欠くことのできない経済的、社会的および文化的権
    利の実現に対する権利を有する」(世界人権宣言22条)

    「何人も、労働するものは、自己および自己の家族に対して
    人間の尊厳に値する生活を保障し、かつ、必要な場合には、
    他の社会的保護の手段によって補足される公正かつ有利な報
    酬をうける権利を有する」(世界人権宣言23条)

二。日本の最低賃金制度の問題点
 1。最賃額の低さと、上がり方の遅さ
  ◇月収や年収換算が大事。「尊厳のある生活保障」という本来の
   役割を果たせていない。
  ◇広島県の最低賃金の推移
   (4月時点。直近25年間。カッコ内は5年間の上昇額)
   *1993年564円→1998年627円(63↑)→2003年644円(17↑)→
    2008年669円(25↑)→2013年719円(50↑)→ 2018年818円(99↑)

 2。地域間格差を広げる要因に
   (A~Dで目安ランク付。そんな制度でいいのか?)
  ◇大都市をかかえる県と、地方県は引き上げ幅が違う。
   例:東京と鳥取を比較。格差拡大。
   *1998年 東京679円×鳥取584円(格差 95円)
   *2008年 東京739円×鳥取621円(格差118円)
   *2018年 東京958円×鳥取738円(格差220円)

 3。経営者の支払い能力が優先される
  ◇最低賃金を決定に際して考慮される3要素
   ①労働者の生計費、②労働者の賃金、③賃金支払い能力。
  ◇審議会において、経営者側が主張する支払い能力が他の要素より優位に
   *「事業の支払い能力」が考慮要素になるのは日本だけ。

 4。最低賃金審議会の過程・決定の議論が不透明
  ◇審議会の専門部会は非公開とされるのが普通。密室で決定されてきた。
  ◇地方の最賃審議会は、中央の審議会決定に沿ってほぼ機械的に議論
   している場合が多い。

三。今後の課題と私たちの運動
 1。最低賃金の意味・役割についての社会的理解を広げる
  ◇「賃金は労使間協議が基本。国が賃金額を押しつけるのは
   おかしい」にどう反論するか?
   *審議会委員にもそういう意見をもつ使用者が多い。
  ◇労働者・労働組合側でも、認識を変える取り組みを。
   *職場や地域でのアピール。学習会をひらく。
    しっかりディスカッションする。

 2。全国一律最低賃金の確立を
   (そのためには、運動も地域・全国で結集して)
  ◇格差拡大をとめ、ナショナルミニマム(国家が国民に保障する
   最低限の生活水準)の確立を。
   *全労連「最低生計費試算調査」では、健康で文化的な最低限
    の生活のためには、月額22万~25万円必要で、全国どこでも
    ほぼ同額。時給1500円相当。
  ◇全国的運動・政治的アクションを。政治の影響力は大きい。
   引き上げ率3%も政治判断。

 3。最低賃金審議会の改革
  ◇広島の審議会の具体的分析を。具体的な戦略をもとう。
   *経営者委員・労働者委員・公益委員、それぞれが代表として
    ふさわしい委員か?
  ◇なにより目安を審議する中央最低審議会の閉鎖性と不透明性の
   打破が求められる

さいごに:人権感覚をみがこう。「わたしの尊厳」を奪おうとする
     ものへの異議申し立て。エネルギーが必要。あきらめな
     いことは、あきらめることよりずっとたいへん。仲間が
     いるからがんばれる。声を出す勇気、たたかい続ける覚
     悟は共同性に支えられる。