長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

京都民医連役責者研修にて、ものの見方・考え方

きのう(18日)は、京都へ。

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京都駅に降り立ち、ランチ食べて、地下鉄で移動。

14時から京都民医連の役責者研修1回目でした。
この研修会、対象者300名なので4回に分けてします。
あと11月に2回、12月に1回きます。
毎回の京都ランチを楽しみにがんばろう。

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研修テーマはこちら。
2時間20分の持ち時間のなかにグループ交流5回入れる構成で、
なかなか時間配分が難しかった。

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でもみなさん生き生き学ばれていたような。
おつかれさまでした。

夜は岡山で労働学校でしたので終了後とんぼ返りでした。


以下、レジュメを紹介します。

一。立ちどまり、問う力。
 
1。私自身の経験から

    「入院して病室で過ごしている患者さんは、普段はどん
    な風に生活しているんだろう、どんな家で、どんな人た
    ちとどんな町や村で生活されているんだろう・・・、あま
    りにもぼくら医療者はそれを知らない。例えがよくない
    が、患者さんをスーパーの切り身の魚のように思って済
    ましているところがある。ほんとは1匹の魚で、それぞ
    れに泳いでいた自然の海や川があったはず」
       (徳永進『野の道往診』NHK出版、2005年)

  ◇常識というのはその場にいる人間で作られ、文化となり固定されていく。

   「権利侵害があまりに一般化していると、それを権利侵害と
   認識することが難しい」
    (木村草太編『子どもの人権をまもるために』晶文社、2018年)

 2。理念の存在意義を考える
  ◇慣れる力。慣れない力。
   *「慣れる」という力は大事。でも、慣れていいことと、
    慣れてはいけないこと(立ちどまるべきこと)があると
    思う。日々の仕事や生活にゆとりがない状況、あるいは
    摩擦・対立を避けようと、慣れてはいけないことにも、
    慣れてしまう可能性がある。
   *問いをもち議論することは、エネルギーが必要。ぶつか
    ることも。めんどうくさい。現実に慣れ、現実から目を
    そらし、違和感や問いを流すほうがラクともいえる。

  ◇組織の「理念」「価値観」がある意味
   *理念や価値観は、現実の「ありよう」を照らすひとつの
    鏡(ものさし)になる。

    「患者の立場に立った親切でよい医療」
    「すべての人が等しく尊重される社会」

    ■現実との緊張関係。矛盾。なにが障害物か。問い続け
     ること。それが、前向きな葛藤やエネルギーを生み出
     す。さらにそれを仲間と共有する。集団として。

   ≪グループディスカッション①―事前課題を交流してみよう≫
   ・事前課題の交流。
   ・逆に、理念やそれにもとづく実践がなかったら。どんな
    職場になるだろうか。
   ・「民医連職員としての成長」というものさしで自分をはかってみよう。


二。民医連の実践を支え・補強する「ものの見方」
 
1。日本国憲法の理念

   ≪グループディスカッション②―人権とはなんでしょうか≫

   *尊厳とは
   *憲法の人間観を職場で活かす。「ひとりも見捨てない」
    「人間として尊重することをあきらめない」「人間らし
    さをみがき、こだわり続ける」。
   *人権も尊厳も目に見えない。ゆれながらも、立ち戻れる
    か。人間は1人ひとり違うからこそ、「同じ価値」を確
    認する必要がある。大切なことは目に見えない。

 2。認識深化への努力―現象から本質へ。結果から原因へ。木も森も見る。
  *イチロー・カワチさんの例え。川の下流だけでなく上流も。
  *上流への認識。それにもとづいた実践なしに、人権はまもれない。

    「医師として私たちは病人を治療するように訓練されて
    いる。当然だ。しかし、行動と健康が人々の社会的条件
    に結びついているならば、社会的条件を改善するのは誰
    の仕事であるべきかと私は自問した。医師が、少なくと
    もこの私が関与すべきではないのか? 私は人々の健康の
    改善を手伝いたいと思うからこそ医師になった。人々が
    病気になったときに治療だけすることがせいぜい一時し
    のぎでしかないとしたら、医師は人々を病気にしている
    条件の改善に関わるべきだ」
   (マイケル・マーモット『健康格差』日本評論社、2017年)

   *民医連綱領より

    「私たちは、(略)・・・生活と労働から疾病をとらえ、
    いのちや健康にかかわるその時代の社会問題に取り組ん
    できました。また、共同組織と共に生活向上と社会保障
    の拡充、平和と民主主義の実現のために運動してきました」

 3。矛盾が原動力に
     ―人権や命の平等をかえりみない巨大な力との“たたかい”
   *哲学がいう矛盾とは、あるものごとの中に、「前にすす
    もう、発展させようとする力」と「押しとどめよう、後
    戻りさせようとする力」がぶつかりあっている状態のこと。
   *現在の政治状況のなかで、「1人ひとりの尊厳を」「誰も
    見捨てない」という理念は、現場の状況とかならずぶつか
    る。経済的にも、制度のなかでも、考え方のうえでも、困
    難がある。でもそれが原動力に転化する。不当・理不尽な
    ことに慣れない自分を。集団でなければ立ち向かえない。
    人権感覚をみがき、人間らしさを問い続ける集団でこそ。

   *「ゆらぐ」ことができる。逆に「ゆらがない」ということ
    は、そこで成長・進歩が終わるということ。苦悩は成長へ
    の過程。矛盾のなかで高まりあう。


三。たしかな社会認識と人権感覚―学びとトレーニングを
 
1。社会・政治情勢を知る
  ◇私たちは、どのように社会認識をつくるのか
   *直接認識→自分で生の現実にふれる・ぶつかる・でくわす・さぐる
   *間接認識(加工情報)→テレビ、新聞、ネット、ラジオ、本、雑誌・・・

  ◇正しい認識なくして、正しい実践(処方箋)は生まれないが、
   ここが難しい。
   *情報あふれる社会のなかで。メディアリテラシーが問われる時代に。
   *残念ながら、日本の報道自由度ランキングは先進国最低レベル
    (67位・2018年)
   *部分で全体を推定するのが人間の理性的な力。しかし認識の誤りへも。
   *認識の過程で生まれる「決めつけ・先入観・思い込み・
    偏見・見落とし」
   *事実から出発するには、つねに「落とし穴」への自覚が欠かせない。

 2。集団の認識で、事実のたばを集め、認識を深めていく―民医連の優位性
  ◇ひとりひとりの認識には限界がある―狭い認識を正し、広げ、深める
   *ひとりで考えると間違いやすい。経験だけで判断しない。
    他者の認識をどんどん借りる。
   *話しあう。教えあう。聴きあう。書きあう。学びあう。
    仲間がいること。
  ◇会議・ディスカッション・情報共有の場を大事に。安心して
   意見表明できる場を。
  ◇本や雑誌や新聞(まともな)を読むトレーニングを
   ―社会や政治に強くなる
  ◇民医連綱領で団結。職場、地域、全国の仲間と学びあい、高まりあう。

    ≪グループディスカッション③―『民医連新聞』『いつでも元気』
    は、どのぐらい読んでいますか? 読む工夫、おもしろさ。ある
    いは読めていないのはなぜ≫

 3。人権感覚のアンテナをみがき続ける
  ◇人権感覚はもろい。環境により磨かれもするし、錆びついてもいく。
  ◇人間は劣悪な環境でも、「慣れる」「順応する」ことができる。
   適応力が高い。
   *人間らしさの基準や限度、人権感覚は気をつけないとスルスル
    と降下する。「こんなもんだ」「しょうがない」。「折り合い」
    という名の「がまん」。あきらめ。あえて考えない。
  ◇人権感覚をみがき育てるには、学びとトレーニングが必要。
   場をたくさんつくる。
   *みずからの人権感覚を研ぎ澄ませる(生活や人生を大事にし、
    人間らしさを問う)ことと、患者や利用者の人権を尊重するこ
    ととは、同じ地平にある。補強・補完関係。
  ◇「おかしい」―異議申し立てにはエネルギー必要。
   *仲間がいるからがんばれる。声を出す勇気、行動し続ける覚悟は
    共同性に支えられる。あきらめないことは、あきらめることより
    ずっとたいへん。
   *自分の思いを表明する、発声練習を。トレーニングを。
   *不当なことに対して「怒る」
    ―人間らしさの発露。「おかしい」と言える自分への誇り。

さいごに:今日の問題提起を受けて、職場で、「まずこれをやってみたい」
     「こんな実践や学習をしてみたい」と思ったことを、付箋に書い
     てみてください。