長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

書評:鎌田華乃子著『コミュニティ・オーガナイジング』

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≪これ読んでください、と言える本の登場≫
 
労働組合とはそもそも、というお話をさせていただく
機会が多い。労働組合の目的や役割、その歴史などを知
れば、参加者は「よく理解できました」となる。同時に、
レジュメにも書いて強調する点がある。こんな話である。
 「わかった」と「行動してみる」には開きがあって、
立ちはだかるものある。「労働組合活動は、みな初心者」
という壁である。変化を起こすための活動など、やった
ことがないのだ。「意義はわかった。でも、何を、どう
すればよいのだろう」となってしまう。対話の方法、人
の誘い方、会議の進め方、団体交渉の仕方、チラシやニ
ュースの作り方、学習会の持ち方、方針(戦略)の作り
方、総括の仕方、人と人をつなげる活動(組織活動)・・・。
とくに若い人は、こうした活動の訓練機会がないままき
ている。だから活動のイメージもわかない。日本の学校
教育でそんなことは教えてくれない…。
 学習会などでは、「模擬団交などをしている組合もあ
りますが、そうしたトレーニング機会を、もっとつくる
必要があります」とは言うものの、それ以上はどうして
も抽象的な話になるので、モヤモヤした語りになってい
た。
 しかし、これからは違う。「そういう人のために! こ
れをぜひ読んでください」と言える本が登場した。それ
が、鎌田華乃子著『コミュニティ・オーガナイジング』
(英治出版、2020年11月)である。これからはレジュメ
に、「活動指南書」として紹介しよう。

≪COは、社会運動のあり方を変える≫
 コミュニティ・オーガナイジング(以下CO)とは、
「世界中の人々が昔から草の根で行ってきた『社会の変
え方』を、理論的・体系的に学べるようにしたもの」で
あり、「幅広い分野で使える変化の起こし方・考え方」
「取り組む課題に応じてさまざまなアクションをとる」
ことができる方法論といえる(本書2P)。
 序章では、著者の鎌田氏自身がなぜCOと出会ったの
か、そのストーリーが語られる。自身の弱さや失敗談ふ
くめた記述は、著者を身近に感じる機会になるだろう。
また、既存の社会運動のあり方・活動スタイルへの疑問
や問題意識は、耳の痛い話でもあり、共感するところで
もある。そして、「人の心を動かす力があり、効果的な
戦略・戦術を持ち、たくさんのリーダーを生み出す社会
運動。普段そうしたことには関わらない人、関わりづら
いと感じる人も参加でき、自分たちの手で変化を起こせ
る社会運動。現代日本には、そんな社会運動が切実に求
められている」という鎌田氏の強い思いが語られる。

≪5つの応用可能なステップ≫
 
「パートⅠ」の1章~6章で、COとは何か、その5
つのステップが解説される。「パブリック・ナラティブ」
「関係構築」「チーム構築」「戦略作り」「アクション」
の順である。COはアメリカの社会運動などを中心に理
論化・体系化されてきたものなので、どうしてもカタカ
ナ語が多く、言葉から距離を感じてしまう人もいる。し
かし本書は、「小学5年生の仲間たちが自由な昼休みを
取り戻す」という架空のストーリーに落とし込み、小学
生たちが主体となって変革を起こしていく物語を通じて、
COの特徴点が理解できるようになっている。とっつき
にくさは消え、わかりやすく、イメージしやすい。読み
進めるうえでのストレスもない。これは類書にない、優
れた特長のひとつである。
 活動における「技」は、個人の所有物である「技能」
と、言語化されていて誰でも学ぶことのできる「技術」
に区別できる。本書は、かゆいところに手が届く「技」
を整理し技術化してくれているので、たとえば章ごとに
執行委員会や小集団で議論し、自分たちの活動に活かし
ていくという使い方もできる。
 5つのステップはそれぞれ、労働組合運動をはじめ、
私たちの関わっている活動に応用できる内容をもってい
る。全部つかえる。それはなぜか。これがCO理解のキ
モになる。COは「社会的にパワーのない人たちをオー
ガナイズし、彼らのパワーを高めていくことを重視」
(161P)「困難を抱えた人たちの力を引き出し、リーダ
ーシップを育てていく活動」(224P)である。強い人
や、すでにパワーをもった人にお願いしたり頼ったりす
るのではなく、立場の弱い人、困難に直面している人の
「資源」を「パワー」に変えることを通じて変化を起こ
す運動論であり、方法論なのだ。
 労働運動などはまさに、個々では立場の弱い、困難に
あえぐ労働者たちを組織化し、その労働者たちが主体と
なってパワーをつくり、リーダーを生み出し、変化を起
こしていくものだ。だから、労働運動はCOを活用でき
る。専従者や一部の役員だけががんばる組合活動と、サ
ヨナラしよう。また、年間スケジュールがもう年度初め
から決まっていて、自発的にアイデアや戦略をつくり、
パワーを集中し、山場をつくるというキャンペーン型の
運動がしにくくなっていないだろうか。「立ち上がるき
っかけは怒りでも、行動は楽しそう、やってみたいと思
えるもの」(90P)になっているだろうか。従来の労働
運動のあり方をブラッシュアップするためのヒントを、
本書は与えてくれるだろう。

≪さあ、探求・行動・学びへ≫
 「パートⅡ」の7章~9章は、じっさいにCOで変化
をつくってきた実践の紹介である。海外の事例、そして
日本での事例。困難に直面する人々をエンパワーメント
し、雪の結晶のような末広がりのリーダーづくり・チー
ムづくりをし、戦略にもとづいて変化を生み出した実践
に、多くの読者はCOの有効性を感じるだろう。
 私は、読みすすむほど、「あの人にも、この人にも読
んでもらいたい」と想像がふくらみ、ワクワクしていた。
鎌田氏は本書の冒頭で、「この本は、世の中のできごと
に『何かがおかしい』と思ったり、暮らしている地域の
問題に気づいたり、今の日本社会や政治の状況にもやも
やしたものを感じたりしている人に、少しでも、その状
況を変えられるかもしれない、と思ってもらえるために
書きました」と述べている。
 私も学習運動のなかで、「変えられるかもしれない」
と思う人を増やしていく活動をしている。困難さもある
が、やりがいのある仕事だと思っている。本書は私にと
っても「百人力」となる1冊だ。たくさんの同志をつく
り、効果的な戦略をもって、ワクワクしながら社会を変
えたい。COの精神にふさわしく、探求・行動・学び
(振り返り)を繰り返しながら、運動論に磨きをかけて
いきたい。