長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

仲間をふやすために、いま何が必要か

関西勤労者教育協会(大阪の学習運動組織です)のニュースに、
「仲間をふやすために、いま何が必要か」というテーマで
寄稿させていただきました。

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以下。

 

 話しかければいい。話しかけなければ仲間は増えない。答えは明快で、シンプルだ。

 でも、「私たちがしなければならないことはたいてい単純なことですが、簡単なことではありません」(『職場を変える秘密のレシピ』日本労働弁護団、2018年)

 単純だけれど、簡単ではない。課題は、「なぜ簡単でないのか」を分析し、その障害となっているものを一つひとつ取り除いていくこと。対話を目的意識的に追求する活動家(オルガナイザー)をたくさん、粘り強く、できれば急いで、つくることだろう。近道はない。

 勤労協ニュースの読者のみなさんは、「数は力」「多くの人が動くことで社会が変わる」と確信しているし、日々運動を広げようと実践されているはずだ。労働組合の多くも、組織拡大の方針を持ち取り組んでいるが、全体として後退に歯止めがかかっていない。保守・革新問わず、どこの政党も組織拡大に成功していない。誤解をあたえる表現になるかもしれないが、仲間を増やすことが大事と「わかっている」し、それが求められる情勢であるのに、なぜ日本の運動は「(中・長期的には)どこも成功していないのか」である(わかっている人が少ない、という指摘もあるだろう)。学習運動も同様で、悪戦苦闘している。どうやったら学ぶ仲間を増やせるのか。模索、模索、模索である。

 

 仲間を増やすことが、自分たちの力を高めるのだから、運動にとって仲間増やしは根本的に重要な課題である。ただ組織化(人と人をつなぐこと)は、理論問題というよりは、活動技術の問題ではないか、と最近考えている。技術は言語化されているもの。誰でも習得することができる。活動技術を共有し、高めあう機会を、意識的につくる必要がある。

 2007年、労働者教育協会の総会で、私はこういう発言をしていた。「会議のもちかた、会議力。オルグの仕方、オルグ力。情報伝達・宣伝の質が問われる発信力。言葉のセンスも必要です。どれもサイエンスだけではうまくいきません。私たち学習教育運動に携わる人間は、『職人』だと思うのです。職人はアルチザンというそうですが、職人は『たしかな技』を持っています。その『技』=『アート』を広く学びあい、磨きあい、共有しあう機会をもっとつくるべきだと思います。率直に言って、そういう場が少なすぎると思います。(略)『サイエンスとアート』の学びあい、共有がされていません。つねにそういう意味での孤独感をもちながら仕事をしています。刺激を受ける機会が少ないのです。協会の機関誌『労働者教育』も改善の必要があると思います。最近は学習組織の実践経験がないとはいいませんが、あまり掲載されていません。サイエンスばかりの機関誌になっていないでしょうか」。この問題意識は、14年たった今でも変わらない。

 

 岡山での実践を紹介したい。コロナ前の取り組みになるのだが、2019年秋に開催した93期岡山労働学校「ものの見方・考え方教室」の募集活動である。受講生は11年ぶりに30人を超え、32名と目標を超過達成。労働学校初参加、そして若い人も多く、大きく成功した。募集成功の要因としては、徹底的に職場・労組のキーマンになる人との対話を重ね、労働学校の意義と役割を共通認識にしてきたことがある。私が募集期間に対話した人は20人をこえる。5分や10分の話ではなく、だいたい1時間ぐらいを使っての対話である。また募集推進ニュースなどの募集活動の見える化、最後まで目標にこだわり日々の行動計画を積み重ねた。

 じつは私自身、この募集期間と並行するように、「目標達成のための技術」を高めるための学びを行なっていた。企業戦士や営業マンが読むような「目標達成の全技術」「目標達成のルール」「絶対目標達成の七つの法則」などのタイトルがつく本である(笑)。6~7冊読んだ。共通することも多かった。つまり法則性があるということだろう。そして「これは私たちの運動にも生かせる」と思った。

 まず、「仲間を増やす」ことは、目的なのか? 目標なのか? という言葉の整理である。私たちがなにげに使っている「ビジョン」「目的」「ゴール」「目標」などの言葉は、じつは人によって解釈が違っていたりする。そこが整理された。適切な目標設定、日々の行動計画に落とし込む方法、全体戦略を考え抜く技術をみがけた。

 ゴールを「10月3日に受講生30名で開校をむかえる」に設定。なぜそのゴールを達成したいのか? の目的やビジョンを言語化し、対話する人とも共有した。節目節目に「申込み到達」の中間目標を設定。一対一の対話数も目標をつくり積み重ねていった。目の前のスモールステップ(日々の行動実践)を書き出し、確実に一つひとつ実行。考える時間をつねにつくろうと意識化もした。また、わりきって「これはやらない(できない)」を決め、労働学校にエネルギーを集中した。

 労働学校の参加者を増やすことは、職場や社会を変える力を高めることは自明である。わかっている。わかっているけど、簡単ではない。そこを突破するには、運動論や活動技術が必要なのだ(学習内容に魅力があることは前提)。組織化とは、人と人をつなぐことであり、核になるのは対話である。だから「どれだけ対話できるか」を戦略的に考え、実践したのである。

 岡山県学習協では、今年2月8日から3月8日までの一か月間、「対話すれば増えるんだキャンペーン」という『友』拡大月間に取り組んだ。拡大月間というと「何部増やしたか」に目が行きがちだが、そうなるとノルマになり苦しくなる。キャンペーンの目的は「対話による関係構築」にした。とにかく人と会うこと。「仲間を増やす仲間」を広げることも意識。実際の対話は、相手との関係が深まり、とても楽しいものだ。だから意欲をもって取り組める。

 

 「ときには労働者たちは勝つこともあるが、それはただ一時的でしかない。彼らの闘争の本来の成果は、直接の成功ではなくて、労働者たちがますます広く自分のまわりにひろげてゆく団結である」(マルクス/エンゲルス『共産党宣言』)。至言だ。団結の広がり、組織化こそが、運動の本来の成果にならなければならない。それを担うのは、人である。学習や分析を深めあい、人と人をつなぎ、それを力に変換していく活動技術の蓄積と共有が、いま、求められている。

 最後に本。昨年出版された鎌田華乃子『コミュニティ・オーガナイジング』はイチオシの「仲間増やし」の活動指南書で、岡山で120冊以上普及。労働組合の学習会などでもテキストとして使っている。それ以外に、組織化・運動論でおすすめの三冊を紹介したい。

 

■『世界を動かす変革の力~ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ』(アリシア・ガーザ著、人権学習コレクティブ監訳、明石書店、2021年1月)。経験と訓練、学習に裏打ちされた言葉と、物語れる力量。運動とは、組織化とは、パワーとは。最後はセルフケアまで語れる細やかさ。

■『社会はこうやって変える!~コミュニティ・オーガナイジング入門』(マシュー・ボルトン著、藤井敦史・大川恵子・坂無淳・走井洋一・松井真理子訳、法律文化社、2020年)英国の市民活動家による社会変革の技術書。関係こそがパワー。自己認識、一対一対話、パワー分析など、役立つことが多い。

■『ザ・コーチ~最高の自分に気づく本』(谷口貴彦、小学館文庫、2016年)。副題がイマイチだが良書。目標、目的、ゴール、ビジョン、夢。これらの言葉の定義をはっきりさせつつ、関連性と具体的行動やモチベーションを引き出す基本スキルがわかりやすく学べる。運動・活動に活かせる。