長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

「言葉について」レジュメ

先日(1日)の、全医労岡山地区協議会での
「言葉について」の講義レジュメを紹介します。


一。言葉の役割について
 
1。コミュニケーション

 2。考えるときの道具
  ◇言葉なしに、考えることはできない
   *判断・推測・比較・分析・総合・推理、想像・・・などの
    考える力(知性)は、言語によって支えられている。
    考える力は、どのような言葉を持っているか(使いこ
    なせるか)と一般的には比例する。
  ◇豊かなことばを獲得できると、ものごとを豊かに考えたり
   表現するベースになる。
  ◇労働者が「労働者のことば」をにぎること。
   *どんな言葉を持っているか。世界の認識、行動の選択が違ってくる。
   *「労働者」という言葉を自分のうちに消化する。労働者としての
    生き方を考える力に。
   *労働条件に対する「文句」「反抗」「わがまま」ではなく、
    「抗議」「要求」。ストライキは「迷惑」ではなく「正当な
    要求を拒む使用者を、困らすことのできる権利」。
   *「団結する」「連帯する」という言葉を、労働者は自分たちの
    生き方としても使う。もちろん労働者だけの専売特許ではない
    けれど、労働者が人間らしく生きるために欠かせない言葉。
    そういう道が見えてくる。選択肢がふえる。自由になる。

 3。書き言葉について
  ◇残ることと、広がること
   *「文字が残る」ことによって、言葉が自分の身体から離れ、
    客観性をもつようになる。書くことによって、みんなで
    それを共有することが可能になる。

二。言葉と社会、言葉をめぐるたたかい
 
1。支配する側の言葉に汚染、慣らされてされていませんか?
  ◇「自己責任」「抑止力」「全世代型社会保障」「勝ち組負け組」
   「多様な働き方」・・・
  ◇私たちを分断し、競争にかり立て、要求を押さえつける
   言葉・表現の氾濫(伝播)。
  ◇「呪いの言葉」
   *「嫌なら辞めればいい」「選ばなければ仕事はある」
    「使えないヤツだな」「企業あっての労働者だ」
    「店がまわらなくなる」「ダラダラ残業」「女なんだから」
    「男なんだから」「お母さんなんだから」
    「デモなんかで世の中変わらない」「野党は反対ばかり」

   *「『呪いの言葉』は、相手の思考の枠組を縛り、相手を
    心理的な葛藤の中に押し込め、問題のある状況に閉じ込め
    ておくために、悪意をもって発せられる言葉」
      (上西充子『呪いの言葉の解き方』晶文社、2019年)

 2。「灯火の言葉」「湧き水の言葉」(上西充子)をつむぎ、育て、
   みがいていこう。

    「私が『灯火の言葉』という表現でイメージするのは、
    心のなかに静かに燃える灯(ひ)だ。体をあたため、気
    力を起こさせ、しっかりと立とうとする自分を支える灯。
    『呪いの言葉』を投げつけてくる人がいる一方で、そん
    な『灯火の言葉』を届けてくれる人もいる」(上西充子、前掲書)

  ◇自分を肯定してくれる言葉。励ましてくれる言葉。
   *みなさんも、他者や本や歌などからそうした言葉を
    もらった経験、あると思います。
  ◇人権の言葉は、すべての人を肯定してくれる「灯火の言葉」となる。

  ■私たちの活動(労働運動や政治運動)はかならず集団で行っている
   *活動の質は、伝えあいの質に規定されている。どれだけ言葉が
    届き、まじりあい、灯火の言葉を伝えあえているか。
    聴くために話すという姿勢。
   *「いつも自分の言う言葉が相手にとってどう響いているか
    ということを気をつけてみないといけません」
    (辻井喬『憲法に生かす思想の言葉』新日本出版社、2008年)

   *「大事なのは、言葉の修辞ではない・・・。『灯火の言葉』は、
    言葉遣いに長けた人だけが駆使できるものではない・・・。丁寧
    に相手に向き合うこと、丁寧に相手を認めること、そして相
    手を認めていることを素直に言葉にすることが、相手に『灯
    火の言葉』として届くのだ」(上西充子、前掲書)

   *言葉を発せない人の言葉を汲み取る。「助けてと言えない」
    「おかしいと言えない」。そうした「発声練習」をする環境
    や訓練がなかった人のほうが多い。

  ◇みずからの身体から湧き出てきて、生き方を肯定する言葉
    ―「湧き水の言葉」を
   *「わたしは」を語る。自分を励まし方向づける言葉。
   *自分が、心から感じたこと、うんうんと考え抜いて発した言葉。

さいごに:「実際には、ひとつの出来事だけで、ひとつの言葉だけで、
     みずからを縛っていた呪いから解放されるほど、簡単に人
     は変われるものじゃない。実際には人は、何度も新たな
     『呪いの言葉』に揺さぶられ、揺れ動き、そのたびに周り
     の人の言葉や行動に支えられ、自分の中に蓄積した『灯火
     の言葉』に支えられ、自分の置かれた状況を俯瞰し、その
     状況をとらえるための新たな言葉を探し、そうして少しず
     つ、少しずつ、不当な干渉に揺さぶられない自分へと変わ
     っていく」(上西充子、前掲書)