長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

『深夜航路』とはいかに。

おもしろい本を読んだ。
たまたま本屋で出会った掘り出し物である。

『深夜航路~午前0時からはじまる船旅』
(清水浩史、草思社、2018年)である。

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といっても、私の趣味のど真ん中ストライク、
の内容だから、興味のわかない人も多いかもしれない。
そういう人は、以下やや長いのでスルーしてほしい。

著者は、
「深夜帯(午前0時から3時まで)に出航する
定期航路を深夜航路として定義」している。
そうした深夜航路が、全国で14ルートあるそうで、
著書がそのすべてに乗り、旅情や弧愁感を綴っている。
旅エッセイともいえる。

その14ルートとは、以下である。
・青森↔函館
・大洗(茨木)↔苫小牧(北海道)
・敦賀(福井)→苫小牧東港
・和歌山↔徳島
・神戸→小豆島
・神戸→新居浜(愛媛)
・宇野(岡山)↔直島(香川)
・柳井(山口)↔松山
・徳山(山口)→竹田津(大分)
・八幡浜(愛媛)↔臼杵(大分)
・宿毛(高知)→佐伯(大分)
・博多→対馬
・鹿児島↔桜島
・奄美大島→鹿児島

なぜこの本に惹かれたのかというと、
私の趣味が島旅で、島に向かう船に乗ることも
大好きだからである。あの解放感がたまらないのだ。

北は北海道の礼文島から、南は沖縄の島々まで、
これまで全国各地の島(船でしか行けない)を訪れてきた。
といっても、まだ30ぐらいだけど。

そんな島好き、船旅好きにとって、
「深夜航路!」というだけで、胸がおどった。
読みながら想像力がふくらみ、終始楽しかった。

じつは私も、過去2度だけ、深夜の船旅を経験している。
1度目は、福岡から長崎の五島列島の福江島に向かうフェリー。
福岡を夜に出発し、次の日午前中ぐらいに、福江島に着いた。
2度目は、神戸から鹿児島県の徳之島(奄美大島の下)に
行くフェリーだ。これは神戸を夕方に出発し、
徳之島に着いたのは翌々日の朝4時とか、たしかそんな船旅だった。

この2ルートは、わりと乗船客(徒歩客)も多く、
弧愁感というものはあまりなかったけど、
それでも深い闇のなかをすすむ船のなかにいると、
日常生活とは異質の時間につつまれる感覚になる。

著者は「おわりに」で、深夜の船旅の魅力について、こう記している。

「深夜航路の静けさに身をゆだねれば、心身のこわばりが
ほぐれ、穏やかな心持になる。一種の瞑想のようなものかも
しれない。そして暗闇が支配する時間帯は、外界的な
ものに振り回されずに済むからこそ、自己対話がはじまる。
つまり、人と出会わず、景色は闇しか見えないからこそ、
想像力を掻き立てられる。目に見えないものに対して、
心が開かれてくる。そう、扉だ。扉の先には、際限なく自由に
浮遊できる奥行きがある。船が波間にたゆたえば、自らの
内面も揺れる。やがて日々の生活に明け暮れて自分の内部で
潜在化していたものが、にゅるりと顕在化してくる。あるときは
空想や夢想、あるときは想像といった具合に、行き先は時々の
自由。そんな無辺の内的飛翔こそが、深夜航路における最大の
魅力なのだと思う」

こうした感覚を、ぜひたくさん味わってみたい、と思う。
本書で紹介されている14ルートはどれも興味深く、
いつかぜひ、乗ってみたいと思う(2つのルートは昼間乗ったことあり)。

船旅が恋しくなる本であった。