長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

「職場や労働条件は変えられる」(『友』4月号)

新年度ですね。
新しく働きはじめたみなさんに読んでもらいたいと思いながら、
『学習の友』4月号に
「職場や労働条件は変えられる―労働組合と憲法はその力」
という一文を書きました。

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若干の加筆を行い、以下に掲載します。
(中見出しもブログ用に変えています)


働き始めることで
 4月に新しい職場で働きはじめたみなさん、こんにちは。
新しい環境、新しい生活はどうでしょうか。まだ慣れない
でしょうか。
 働きはじめること。そのことで「変わること」には、何
があるでしょうか。

サイクル、人間関係、生活の成り立ち
 まず生活サイクルが変わりますよね。職場の始業時間ま
でに、通勤しなければなりません。通勤手段はどんなもの
をつかっていますか? 出勤前はあわただしい時間です。仕
事は定時で終わっていますか? いきなり残業している、と
いう人はいるでしょうか。仕事時間が伸びると、生活時間
がそのぶん削られてしまいます。
 変わることの2つ目は、人間関係でしょうか。何人の職
場で働いていますか。同期は何人かいますか? 仕事をつう
じて生まれる人間関係。新しい出会いにワクワクしたでしょ
うか。あなたに仕事を教えてくれる先輩や上司とのコミュ
ニケーションは良好ですか。いきなり即戦力として扱われ
るなんてこともありますよね。そんなの無理なんですけど。
職場の人間関係は、働き続けていくための大事な要素のひ
とつになります。
 変わることの3つ目は、得られた賃金で、あなたやあな
たの身のまわりの人の生活が成り立っていく、ということ
です。自分の生活を自分でプロデュースしていく力がつい
ていきます。賃金の多い少ないは、生活の質を決める大事
な問題です。
 ほかにも、さまざまな「変わること」「変わっていくこ
と」があるはずです。仕事に慣れるまではもう少し時間が
かかるでしょうね。毎日いろいろなことを経験し、その経
験は、あなたの力を伸ばしてくれることでしょう。

どう生きるのか、という問い
 もうひとつ、みなさんに考えてほしいことがあります。
新しい環境に慣れていこうとする意識や意欲が強い時期
ではありますが、同時に、その環境自体を問う力をつけ
てほしい、ということです。それは「いまの環境に順応
することと同時に、その環境をより良いものにするため
に、あなた自身がどのような行動をするか」という課題
であり、根本的な問いをたてるならば、「どう生きるの
か」という問題です。「社会人」という言葉には、この
社会や職場の一員として、そのありように主体的にかか
わることへの期待もふくまれているのではないでしょう
か。

『君たちはどう生きるか』より
 漫画『君たちはどう生きるか』(原作・吉野源三郎、
漫画・羽賀翔一、マガジンハウス)が爆発的ヒットを続
けています。
 登場する主人公の名は「コペルくん」。吉野源三郎さ
んが1937年に出版し、戦後、多くの人に読み継がれ
てきた原作の漫画化です。この物語のなかでコペルくん
は、自身の体験とおじさんとの対話を通じて、社会や人
間の本質を問い、苦悩しながら人間らしい生き方を考え、
「発見」していくのです。
 コペル君にあてたおじさんのノートのなかに、こんな
一節があります(原作と漫画どちらにもあります)。
 「人間は、どんな人だって、一人の人間として経験す
ることに限りがある。しかし、人間は言葉というものを
もっている。だから、自分の経験を人に伝えることもで
きるし、人の経験を聞いて知ることもできる。その上に、
文字というものを発明したから、書物を通じて、お互い
の経験を伝えあうこともできる」

学ぶことで広がる問いや視野
 私たちは、地球が太陽のまわりをまわっていることを
知っています。学校で習いますから。でもそれは、人類
の先輩たち(まさにコペルニクスなど)が苦労して「発
見」してきた知識と観測にもとづいた理論を学ぶことが
できるからです。学ぶことで、自分の経験だけでの判断
や、狭いものの見方とは違う「視野」をもつことができ
るのです。
 自分の経験を積み上げていくことと同時に、私たちは
もっと広い視野から、歴史的出来事にも学び、ものごと
の本質や、「どう生きるのか」の問いを豊かにつかむこ
とができます。
 働くことに対する考えも、同じだと思います。実際に
働きはじめることで得られる自分の経験にもとづく考え
は、認識の出発点ですから、とても大事なものです。同
時に、他者の経験や社会的視野から、「働くこと」や
「どう生きるのか」を深めてみることを、ぜひしてほし
いと思います。

雇われて働く人に共通する問題を考える
 この『学習の友』4月号には、さまざまな方が「働き
方」「労働組合」についての自分自身の経験を紹介され
ています。それぞれは別の体験です。でも雇われて働く
人に共通する問題も浮かび上がってくるのではないでしょ
うか。それは、読者のみなさん自身の「これから」を考
えるひとつの材料になりうるでしょう。労働組合という
ものへの認識にもつながるものです。
 私たちは、働いていくうえで、さまざまな「困難」
「壁」「問題」にぶちあたることがあります。「仕事を
辞めたい」と思うこともあるかもしれません。カギは労
働条件であり、職場の環境です。それは、みなさんが
「ひとりで解決しよう」と思っても、難しい問題として
立ちふさがります。
 労働条件が崩れてしまうとき、あなたの生活も崩れて
しまいます。そういうリスクが「働くこと」にはありま
す。あまりに低い賃金、生活が侵食される長時間労働、
1人ひとりが尊重されない職場の人間関係・・・。「働け
るだけで幸せ」なのではありません。働いて、なおかつ
自分の生活が人間らしいものになることが必要です。職
場のなかでも、あなたがあなたらしく働けることが大事
です。でもそれを押しつぶす力があることも事実です。
それは、いまの資本主義社会のあり方そのものの仕組み
からきています。ぜひ社会科学の学習もしてほしいと思
います。

人権をまもる組織としての労働組合
 労働条件や職場の環境をよりよいものにするには、使
用者と交渉するしかありません。1人ひとりバラバラだ
と立場の弱い労働者が、使用者と対等に交渉するために
は何が必要か、そのことを労働者は歴史的な実践をつう
じて発展させてきました。それが、労働組合と、労働組
合による団体交渉・ストライキです。働きやすい職場を
つくることと、生活を壊すような「低賃金」や「働きす
ぎ」を防止するために、「みんなで交渉する」「みんな
でたたかう」という方法です。その手段を、労働者の先
輩たちは獲得してきたのです。
 歴史のなかで、労働組合は「人権をまもる組織」とし
て発展し、憲法にまで書き込まれることになりました。
 日本国憲法は28条で「勤労者の団結する権利及び団
体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」
とうたっています。これを労働基本権、または労働三権
と言います。労働条件を対等に交渉するための「3つの
手段」です。労働組合をつくり(入り)、使用者と交渉
し、ときにはストライキを構えて譲歩をせまる。このよ
うな活動を法的に保護されているのは、労働組合だけで
す。
 労働者は、ひとりでは労働条件の交渉がまずできませ
ん。交渉ができなければ、自分の働き方や生活について
は「他人まかせ」になってしまうことを意味します。だ
から憲法は、労働三権を無条件で労働者に保障して、対
等の立場で使用者と交渉できるように応援しているわけ
です。これを使わない手はありません。私たちには憲法
がついているのです。

職場も社会も変わってきた
 さて、冒頭、「働きはじめて変わること」を少しだけ
見てきました。じつは「変わること」はあなたの生活や
人間関係だけではありません。職場も社会も「変わる」
のです。いまの職場や働き方も、じつは「変わってきた
結果」の姿なのです。
 みなさんが8時間以上働くことは、原則許されていま
せん。使用者がみなさんを8時間以上働かせるためには、
労働者の過半数を組織する労働組合(もしくは労働者代
表)と使用者が特別に協定を結ばないとできないのです
(労働基準法36条)。この「8時間労働制」というの
は、労働者の先輩たちが百数十年前から声をあげて「要
求」してきた労働条件のひとつです。昔から8時間だっ
たわけではありません。8時間労働でなければ、労働者
の生活が人間らしいものにならない、あなたらしい生活
が侵食される。そういうものとして闘いとられてきた大
事なルールなのです。

あなたがあなたでいられるために
 この「人間らしく」「あなたらしい生活」をまもるた
めにあるのが、日本国憲法です。憲法は、あなたがあな
たでいられることをもっとも価値の重いこととして大事
にしています(13条・個人の尊重)。そしてそのため
の自由や権利を保障しています(基本的人権)。あなた
は国や会社の従属物ではありません。あなたをモノや道
具のように扱うことも許されません。差別されません。
排除されません。それを確認しているのが憲法です。
 今号の特集で手記を寄せられているみなさんは、人間
らしく働くことや、自分らしさを押しつぶそうとするも
のとたたかってきました。働き続けられる職場をつくる
ために仲間と行動してきたのです。そのたたかいの背中
を押しているのが、日本国憲法なのです。それは、先人
の長くきびしいたたかいのなかで獲得されてきた、私た
ちを守る手段であり武器なのです。

違和感にふたをしない生き方
 職場や労働条件は、変わります。良いようにも、悪い
ようにも。それは、みなさんの生活、もっといえば人生
に大きな影響をあたえます。そうであるならば、そこに
積極的に関与し、他人まかせにせず、職場や労働条件を
仲間と一緒により良いものにしていきませんか。
 「どう生きるのか」という問いは、壮大な問いのよう
にも思えますが、現実の環境に対して、自分がどう判断
し行動するのか、そのものさしであるとも言えます。
「おかしいな」と思ったことや、違和感にふたをしない
生き方の選択です。そして「おかしい」といえるために
は、それを共有できる仲間と一緒に声をあげることが大
事です。労働組合は、あなたの思いを表現できる場でも
あるのです。

自分のものさしを豊かに
 いま、この憲法を変えようという政治の動きがありま
す。安倍政権はもともと憲法を守る意志がありません。
それは国民1人ひとりを大事にしない政治であり、人間
を大事にしない政治です。そんな政治が続く限り、私た
ちの働き方も生活も良くならない。だから労働組合は、
憲法をめぐる政治的なたたかいにも参加します。私たち
の生活に関わることだからです。
 「おかしい」に気づく力を育てるのは、仲間との学び
や議論です。自分の経験だけの「ものさし」ではなく、
他者や歴史の学びを通じて得られる「ものさし」を身に
つけ、みがいていきましょう。この『学習の友』も、そ
の材料になるはずですし、勤労者通信大学の入門コース
も、「社会がみえる」学習教材です。ぜひまわりの仲間
と一緒に、自分のものさしを豊かにしていきませんか。
より良い未来をつくる力を、私たちはもっています。