長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

学びあい育ちあう職場づくりのヒント

青森民医連での講義その3。
概要です。


はじめに
どんな組織でも、人間の集まりである以上、「教育」という営みが
ある。教える、育ちあう、学びあう、高まりあう。それなしには
組織は生き生きしないし、理念や目標の達成はおぼつかない。でも、
教育観や教育実践を学びあう機会が少ない。「教育欲」「教育の言
葉」が乏しくなっていないだろうか。意欲と動機づけ。個別性と
一般論。教育を語る言葉の獲得を(実践とともに)。


一。育つ、とはどういうことだろう
 
1。変化する、ということ
  ◇野菜が育つ、子どもの成長、人として成熟する・・・
   *あるものが、あるものでありながらそれまでの状態から変化すること
   *人の場合、「~ができるようになる」以外にも、たくさんの「力」を
    つけること。
    ・洞察力、感性、問題にきづく力、社会性、受容力、聴く力・・・

 2。育つ主体と環境
  ◇種を植えれば芽が出、やがて成長する。これは必然であり、
   その主体内部の力。
  ◇しかし、適切な土壌や水分、環境を整えなければ、枯れてしまう危険も。
   *育つ主体はあくまで相手。内的な力。そして自分たちを乗り
    こえていく存在。
   *あわせて、外的要因も大事。「たまたま」(偶然)をたくさん
    準備する。
    →出会い、学び、めあて(使命や動機、ピカピカ光る背中)、仲間

  【岡山県民医連「平和ゼミナール」での経験】
  ◇2013年に第1回の平和ゼミナールが開催された
   (6月~2014年3月まで全9回)
  ◇14名参加(うち青年職員12名)→うち事務局5名+長久で企画・準備
  ◇企画段階から関ってほしいということで、1月ぐらいから参加・サポート
  ◇カリキュラム
   ①6月 開校式・記念講演 伊藤千尋「憲法」講演
   ②7月 戦争と人権―日本国憲法の視点から 長久講師
   ③9月 課題図書3冊をそれぞれ選び独習。各7分程度で発表
    *『それぞれの「戦争論」』(川田忠明、唯学書房)
    *『「慰安婦」と出会った女子大生たち』
            (石川康宏ゼミナール、新日本出版社)
    *『戦争への想像力―いのちを語りつぐ若者たち』
              (小森陽一監修、新日本出版社)
   ④10月 自衛隊・日本原駐屯地フィールドワーク
   ⑤11月 沖縄フィールドワーク事前学習
           沖縄戦歴史ミニ講義、『標的の村』
   ⑥12月 沖縄フィールドワーク 2泊3日
   ⑦1月 沖縄フィールドワークふりかえり
   ⑧2月 グループごとに全体の学びの発表を形にする
   ⑨3月 個人ごとの卒業発表

  ◇大事にしたこと
   *1回1回の学びの場への問題意識をつくる
    ・裏カリキュラムの重視(事前課題―読む・書く)
   *変化(成長)を起こそう思ったら、目的意識的に量をきちんと
    準備する
    ・受身的な姿勢にならないように、何かしらの課題を与え続ける
   *書くこと、書きあうこと(生活綴方教育の実践から学んだこと)
    ・事前課題、毎回の感想文、卒業文集など、「書かせる」ことに
     執着する
    ・書くことは、考えること、自分や他者と対話することもである。
     言葉をにぎる。
    ・そして書きあったことを学びあう。高い相乗効果。
   *討論をかならずすること―集団学習の長所を最大限生かす

  ◇ゼミ生の変化―きっかけは、「たまたま」「半強制」でもよい
   *ゼミ生の変化にまわりがびっくり。毎年開催に方針変更。
   *第1回平和ゼミ生の自主企画で、『標的の村』自主上映会を7月に。
    約300名参加。
   *ただ事業所によってゼミ生派遣の温度差も…

 3。対象(自分、他者、職場、社会、政治など)の変化をとらえる
   ための心得
  ◇変化にも法則性がある
   ①量的変化と質的変化。コツコツとした、目立たない変化の
    積み重ねによって、目に見える質的変化が準備される。地道に。
    地味に。練習メニュー。鍛える。磨く。継続。繰り返し。目的
    意識的に量を準備する(岡山労働学校の経験、継続学習会の教訓)。

   ②肯定をふくんだ否定。否定を通じてものごとは発展していく。
    理解しつつ、ダメだし。伸ばすために評価する。ご破算型、
    全面否定でなく。うねうねとした変化を受容する力、見極める力。
    良し悪しあわせ持ちながら変化。

   ③矛盾が発展の原動力。ひとつの物事のなかに、相対立する傾向や
    要素がぶつかりあっている。たたかっている。それを矛盾という。
    ぶつかりあいのなかで、ものごとは動いていく。相反することが
    併存するのが現実。

   *自分のなかに「矛盾」をつくる(相手に「矛盾」をもってもらう)
    ・「めあて」になる事柄、「めあて」になる人をつくる。
     自己成長の目標と計画をもつ。
    ・「こうありたい自分」と「いまの自分」とのぶつかりあい
    ・ストレスは自分を成長させる糧にもなる
   *目標がなければ、矛盾は生じない。矛盾が次の発展の契機に。

 4。育つ、ということの目的。その言語化。
  ◇自分のため、職場のため、患者さんや利用者さんのため、社会のため…
   *どれも良し。どれもつながっている。役立ち。喜び。
   *「育つ目的」が具体的であればあるほど、やるべきことも具体的に。
  ◇職業的成長、人間的成長、主権者としての成長
                ・・・成長は多面的で結びつきあう。

 5。育つこと、育てること
  ◇育つこと
   *主体は自分(その人)。でもつながりのなかで。さまざまな
    環境のなかで。
   *自然発生的成長(枠組み内での伸び)と、
    目的意識的成長(矛盾をつくる)。
   *自分ひとりの力とともに、仲間と協力できる力の大事さを認識する。
   *理解されること。他者からの適切な評価(自己の成長に
    関心をもたれること)。
   *自惚れることも大事(ただしそれをあけっぴろげにしない)
    「自分に惚れ、自分に自信をつける。そのことが、次のステップに
     猛然と駆け上がるエネルギーとなるのである」
          (中沢正夫『ストレス「善玉」論』岩波現代文庫)

  ◇育てること
   *目の前の人(あるいは職場)の発達課題・成長課題を発見する
    ところから。
   *教えるということは、つまり学ぶこと。教えるほうも不完全。
    模索、工夫し続ける。
   *問題意識を聞く。場をつくる。議論する。納得を引き出す。
    信頼される。尊敬される。
   *すぐれた実践を一般化する(話す・書く。共有財産に)。
    ただし絶対化しない。
   *他者を育てることで、自分自身がさらに育つ。喜びや楽しさ。
    働きかけ⇔理解の前進。
   *若い世代が背負ってきた「時代の圧力」を理解の前提に。
   *職場教育の実践、教育観・方法を実践とともに検証し磨いていく。
   *育てる人以上に、自分が自分の成長に貪欲か。自己投資しているか。
    教育欲。
   *最終目標は、相手が自分から離れていくこと。自分で自分を
    伸ばす力がつく。

   ■『学習する組織-現場に変化のタネをまく』
              (高間邦男、光文社新書、2005年)
   *著者の高間氏が、NTT東日本の法人営業本部の役員に、
    インタビューしたときのこと。「戦略は何ですか」と聞い
    たら、「学習機会をつくる」というのが答えの一つとして
    返ってた。「学習機会とは何ですか」とふたたび聞いたと
    ころ、その役員は、「それはピカピカ光る背中を持つ人間
    の周りをウロウロできることですよ。しかし問題は、ピカ
    ピカ光る背中を持つ人間が法人営業に20人しかいないこ
    とかな」と言ったそうです。
    著者はその答えに驚かされて、また納得し、こう書いています。

    「人は自分の接する社会、つまり周囲の人や本、インター
    ネット、様々な経験などから主体的に学習する。その中
    でも他者との相互作用から一番多くを学ぶと私は思う」
    「今の若い人たちは、子供の時分から学校を出るまでの
    成長過程で接する人物の数が、昔よりも少ない傾向にある。
    ・・・その結果、客観主義による勉強はしてきたが、
    人々との相互作用で行われる社会構成的な学習機会が少ない
    ので、社会性が低くなる傾向があるのではないだろうか」
    「問題は、ピカピカ光る背中を持つ人間に運がよくないと
    めぐり合えないことである
   *つまりどんな人と一緒に働いているか、出会うか


二。育ちあう職場、とはどんな職場だろう―考える材料に
 
1。個人と組織の目標の設定(連動していることが望ましい)。
   そこへの参画。
  ◇役割・使命の共有。共有とは、自分のこと・自分のものだと
   思っている状態。当事者。
  ◇目標決定プロセスへの主体的参画(民主主義)
   *目標設定に当事者を参画させずに、あとから主体性がない
    といっても、要求するほうが無理。参画するためには民主
    主義が必要。民主主義の反対物は「おまかせ」。
  ◇目標・使命を(言葉で)節目節目で確認・検証し、みがいて
   いく不断の努力
  ◇学習機会、場、材料、時間の保障

 2。育ちあう場の前提条件は、民主主義
  ◇決定的なのは、表現(とくに言葉による伝えあい)の自由
   *自分の言葉をもって、意思決定に参画すること。
  ◇しかし、職場のなかにはさまざまな「力」が働いている
   (そしてそれはなくせない)
   *上司と部下。役職とそうでないひと。先輩と後輩。年齢。
    雇用関係。ジェンダー。医師と看護師など。
   (ちなみにハラスメントはこうした力関係のなかで起きる)
   *強者と弱者、声の大きいひと小さいひとがかならずいる、
    ということを認識する
   *人間集団の力関係を完全にフラットにすることはできない
   (家庭でも職場でも)
   *「力」をもっている側の姿勢(民主主義度)が問われる。
  ◇民主的でない職場は、表現の自由が制限されている状態。
   参画できない。一方通行。

  ◇「~しあう」関係性(積み重ねにより培われる)
   *職場のなかの関係性がよくなると、自己を否定される恐れが
    なくなるので、その場が安全になる。様々な異なる意見が提
    示される。失敗を恐れて何もしないという状態から抜け出す。
    経験や教訓が共有される。
   *さらにそれが仲良しグループ的でない、「目的の共有(使命・
    理念・課題)」が加わると、より幅広く深い探求が行われる
    ように動きが変わってくる
   *「~しあう」関係へ。学びあう、話しあう、高まりあう、
    認めあう、気づきあう、支えあう、助けあう…。1人ひとりが
    均質ではないからこそ、集団の力は大きい。

 3。その他、もろもろ
  ◇成長するのは職場のなかだけではない(外へ外へ)。
  ◇読んだ本(論文)を紹介しあう文化の再構築。
  ◇人間の成長や関係性は、思いどおりにいくことのほうが少ない。
   待つ力。腰をすえて。
  ◇エネルギーやストレスのかかる姿勢。グチを言える人を2人は
   つくっておく。
   *もちろんあなたも誰か2人のグチの聞き役をする
  ◇ちがう世界の楽しみや喜びをたくさん知る―趣味や生きがい
   *「自分の顔」をたくさんもっておくほうがよい
  ◇リフレッシュするときは思いっきりリフレッシュする―職場から離れる
  ◇労働組合は、育ちあいのとても大切な舞台
  ◇理念をかかげ、社会的・政治的課題にも取り組む民医連的使命と
   「おおいなる矛盾」