長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

字幕屋の気になる日本語、休み方の知恵

最近読み終えた本。
どちらも良かったです。


『字幕屋の気になる日本語』(太田直子、新日本出版社、2016年7月)

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言葉への愛を感じたエッセイ集。読みやすさ抜群。
セリフ1秒につき4文字という映画字幕の制限は、
想像以上に苦悶の所業。だから鍛えられる。
伝えることの難しさと奥深さ。プロとしての矜持も。
良書!

以下メモ。

「昨今は平気で右へならえ、ワンパターンフレーズの
大合唱。語彙の乏しさがばれるより、周囲の人と違っ
たことを言って浮いてしまうほうが怖いのか、はたま
た単に適切な言葉を探すのがめんどくさいだけなのか、
言葉に対する姿勢がひどくおざなりに見えます。そし
て、その手抜きを補うために、誇張表現でスパイスを
効かせようとする。
 もっと穏当ながら繊細で上質な言葉を探すことに力
を注ぐことはできないものでしょうか。言葉をおろそ
かにすると、生き方そのものが雑になる気がします。
刺激ばかり追い求めず、細部に目を配り、ゆっくりじ
っくり向き合えば、心のありようも少しは変わってく
るかもしれません」(59P)

「1秒か、長くても5秒で消えてしまう字幕は、見た
目が命。美意識を磨きましょう。たとえば、ふだんの
メールやブログやSNSで、読み手のことを考えずに
文章をつづっていないでしょうか」(189~190P)


『休み方の知恵ー休暇が変わる』(野田進・和田肇、有斐閣選書、1991年)

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フランスやドイツの余暇事情、年休権獲得の歴史と思想的背景、
日本の余暇事情、など。
まあ、あまりにわが国と開きがあってボーゼンとするしかない。
労働とともに余暇に価値を認める生活観の獲得が必要ですね。

以下メモ。

「余暇の発展を支えてきたのは、つきつめて分析して
いくと、制度であり、文化であり、企業または労使関
係ということになる。それぞれの仕組みの中に、充実
した余暇を可能にする『休暇の知恵』といったものが
蓄積されているはずである」(7P)

「休暇の買い上げは許されない。年休の権利とは、現
実に仕事から解放されるという利益を意味しており、
『買い上げ』という発想そのものが、年休の保障とは
両立しないのである」(32P)

「フランスとドイツの年休制度をみて気づくことは、
この二つの国の年次有給休暇は、それが完全に年度内
で使い切られることを前提にして、システム全体が成
り立っていることだ」(36P)

「年次有給休暇は、病気治療や家族の看護や仕事上の
研修のためのものではない。それらは他の休暇でまか
なわれるべきものだ。年休の目的は、ドイツ流にいえ
ば『保養』(Erholung)、フランス流には『ヴァカン
ス』(vacances)であって、それ以外ではあってはな
ならない」(38P)

「そうすると、病気やけがの治療を目的とする休暇が
かならず必要になる」(40P)

「1900年に約3000時間だったフランスの年間労働時間
数は、1980年代には1650時間に短縮された。これは、
週の労働時間の短縮もさることながら、年休の発展に
よるところが大きいといわれている」(114P)

「ドイツ人は、懸命に働くことも一つの価値、家族と
ゆっくり過ごすことも一つの価値、自分の趣味の時間
をとることも一つの価値、地域活動に参加することも
一つの価値で、これらが共存している」(132P)

「まず、もっとも基本的に必要なのは、年休の完全取
得を前提とした人員配置である」(155P)

「『休んでも休んでないのと変わりない』というのが、
年休制度の最低の条件である。したがって、年休を取っ
たことを人事考課の要素とすること自体が、労基法の
趣旨に反していると考えられる」(157P)

「計画休暇の方法による長期休暇の実現のためには、
これまでのべてきた技術的戦略もさることながら、そ
れに加えて、多くの人がそうした休暇をぜひとも希望
しているという、高い希求の圧力が前提になるのでは
ないだろうか。多くの人が望まなければ、休暇の制度
は定着しようもない」(183P)