長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

労働時間問題のむずかしさ

きょう(6日)の午前中は、生協労組おかやまの
新人専従者教室の7回目。「労働時間とはなにか」でした。

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参加はいつもの4名。
講義後の議論では、何から手をつけていいのかの悩み、
現場の労働者の状況や意識、
現場の労働者自身のたたかいにどうしていくか、
などなど、あれこれあれこれ話が。むずかしい。

賃金問題とくらべ、労働時間短縮、休みの拡大・有休取得の問題は、
労働者側の権利意識の醸成にとっても時間がかかることが
ネックになっているように感じました。
「仕事を請け負っているのではなく、時間を売っている」
ということは学び議論しないと感覚化できないので。
法的規制を強化するのは前提ですが。

あと日本の労働運動がなぜ歴史的に時短闘争が
弱かったのかの主たる要因について「私的見解」としつつ、
労働運動がこれまで「男の運動」であったこと、
女性に家事や育児の責任を負わせ、
「私的生活時間確保の要求」の切実さがなかったことをあげました。

「家族を養う責任としての男性」というジェンダーの
縛りの強さが、賃金闘争だけに主たる力をさくという
日本の労働運動特有のゆがみを引き起こしていること
などを問題提起させていただきました。


以下、前半部分のレジュメです。


一。労働時間のそもそも―歴史と現在
 
1。人間にとっての時間の意味
  ◇時間のなかで生きている。時間を認識できる。
   手持ち時間(寿命)は限られている。
  ◇時間主権―自分の手持ち時間を、自分の使いたいように使える

   「『豊かに生きる』には、いろいろな意味づけ、内容がある
   だろう。私は、『豊かさ』を決めるカギの一つは、『時間を
   使う』か『時間に使われるか』にあると思っている。…どう
   やったら時間をアゴで使えるようになれるかをいつも考えつ
   づけている」
   (中沢正夫『「死」の育て方』情報センター出版局、1991年)

 2。雇われて働く労働者にとっての時間
  ◇「労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」
                       (労働契約法2条)
   *労働者は「自分の時間」を切り売りして、他者(雇う人間)に
    使わせている存在。
   *裁量の小さい時間。制限された時間。
  ◇8時間労働制は労働者にとって人権のかなめ
   *生活時間の確保は人権。自分の選べる時間(ゆとり)の保障。
    労働力の適切な回復。
   *8時間自分の時間を切り売りすれば、人間らしい生活を保障
    される賃金の確保

    「言論の自由、表現の自由などの市民社会の生み出した輝か
    しい市民的人権とともに、『ゆとりある私的時間』を確立す
    ることもまた、現代日本において求められる新しい『人権』
    である」     (藤本正『時短革命』花伝社、1993年)

   ■低い月給や時間給(パート労働者など)という矛盾
    ・残業をすることで必要な生活費をなんとか確保する(時間
     延長の内発的要因に)
    ・労働時間が長い(自分の時間をけずる)ほど、賃金が多く
     なるという矛盾
    ・非正規労働者の時間単価が差別的に低い
     →ダブルワークなどせざるをえない人も多い
   ■日本の女性は有償労働+無償労働の合計が先進国でいちばん
    ・家事労働(家事・育児・介護)の偏り。家事ハラ。つまり
     自分の時間がない。

 3。労働時間の歴史的変遷
  ◇資本主義社会以前、基本的には、太陽とともに働いていた。
   社会にみなぎる悠長さ。
   *「時間をまもる」という文化・規律観が登場してくるのは
    近代以後。
   *鉄道の発達による「全国一律時間」概念の発展、時計の発
    達による時間の個人化。
  ◇産業革命が引き起こした変化。道具から機械へ
   …人間中心から機械中心に
   *工場での「いっせい労働」。機械制大工業。「いっせいに」
    のためには、労働者が時間を守る人間になる必要がある。
    日本でも「遅刻の誕生」はここ100年ほどの出来事。
   *8時間→10時間→12時間→14時間→16時間と。
    夜間労働も。
  ◇労働時間を制限させる法律を闘いとってきた労働者・労働組合
  ◇1886年5月1日。アメリカ。メーデーの起源は8時間労働制を
   求めるたたかい。
  ◇ILO(国際労働機関)第1号条約(1919年)は1日の労働を8時間と
   定めたもの。

 4。休日・休暇問題―休みは人権
  ◇世界ではじめての有給休暇の獲得
    ―1936年フランス。「人民戦線政府」の時代に。
  ◇適切に休む、リフレッシュすることは、長く働き続けるための
   土台となる。
   *自分の思うように休めることが大事。とくに長期休暇。
    リフレッシュ休暇制度も必要。

    「現代労働の質的変化を抜きにしては年休権の拡大は考える
    ことができない。長期間にわたって、労働からは断絶した私
    的生活を確立する。そのことによってストレスから解放され、
    心も身体もリフレッシュさせる。それこそが、バカンスであ
    り、長期間の年休である」
             (藤本正『時短革命』花伝社、1993年)

    「年休を満足に取らないこと、それは、自らの生命と健康を、
    切り刻み、家庭の平穏を捨てていることになる。年休は、疲
    労回復のためにだけあるのではない。労働という名の、他者
    からの支配・従属から離脱して、自分の時間として、自分の
    生活をエンジョイするためにある」(同上)

    「年休権の保障こそ、8時間労働制と並んで、働く者の生存
    権『人間らしく生き抜く権利』の、中核的部分を占めている」
                            (同上)

    「企業にとっても、従業員が常に柔軟で創造的な発想をもつ
    ことを求めているのであり、その能力はリフレッシュ休暇に
    よって、回復し、充電される」「リフレッシュ休暇は10年ご
    とに最低1カ月は必要である」(同上)

  ◇有給休暇は人権なので、誰でも取ることができる
   (権利行使には労働組合が不可欠)。
  ◇ILOの年休条約(1970年)は年間3労働週(うち2労働週は
   分割してはならない)
  ◇「バカンスは人権」が定着しているヨーロッパ社会
  ◇ゆとりある私的時間が仕事にもフィードバック
   *スピルオーバー。仕事と私的生活は、相互に影響しあう。
    ポジティブにもネガティブも。仕事と家庭の役割葛藤は、
    労働者の精神衛生を阻害するだけでなく、勤労意欲の低
    下や仕事上のパフォーマンス低下に結びつく。