長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

核ZERO講座にあたってーその3

 2009年秋に、岡山労働学校で核廃絶問題に
特化した「核ZERO教室」を開校した。
 いうまでもなく、2010年のNPT再検討会議に
向けた運動の力にしようという中身であった。
 この教室のことは次回書くとして、この労働学校
に向けて、わたしも準備のためにさらなる学びを
自分に課した。

 たくさん読んだ本のなかで、とくに印象に残っ
ている2冊を紹介したい。

 まず、『ヒバクシャの心の傷を追って』(中澤正夫、
岩波書店)である。
 著者は知る人ぞ知る精神科医なのだけれど、
長年、医療者として被爆者のケアや聞き取りを
ライフワークとして行ってきた。そして、被爆者の
語りから垣間見れる「心の傷」の問題にスポット
をあてたのが本書である。
 見捨て体験による自責感、生き残った負い目、
感情麻痺、引き戻らされ体験、今なお加わる
心の傷・・・。
 そしてもっとも印象に残ったのが、「サイレント・
マジョリティ」、つまり今も原爆を語ることができ
ない、自分の胸のうちにあの体験を閉じ込めて
いる人の方が多い、という指摘であった。

 この本を読んでからは、被爆者の方の証言を
読むときの心構えや関心の角度が変わったように
思う。被爆者の方々が背負わされた心の傷は、
さらにその傷口が広がることもあるし、けっして
完全に癒えることはない。私たちがつねに肝に銘じて
おかないといけない視点を、この本で教えられた。

 2冊目は、『ヒロシマ・ナガサキ 死と生の証言』
(日本原水爆被害者団体協議会編、新日本出版社)。
 この本は、約600ページのほとんどすべてが
被爆者の証言で、スラスラ読めるしろものでなく、
泣きながら読んだことも何度も。けっきょく、休み
休み心を落ち着かせながら、3か月以上かけて
読み終えた1冊であった。
 それまでも、被爆証言はいろいろ読んでいたけ
れど、2005年の転機をきっかけとして自分の問題
意識がおおきく変化していた立場でこれらの証言
を読めたことも、おおきかったのだと思う。
 あのきのこ雲の下で、1人ひとりの人間に何が
起きたのか。それを知ることはけっして楽しい作業
ではないが、この「原体験」こそが、核廃絶の思想と
運動の出発点なのだと、あらためて確認できた1冊
だった。

 他にも紹介したい本はたくさんあるのだけれど、
1冊だけ。若い世代がこの被爆体験をどう学び
継承していくのかという点で、朝日新聞長崎総局の
若手記者が1年かけて取り組んだ「被爆体験の
聴き取り」をまとめた『ナガサキノート-若手記者が
聞く被爆者の物語』(朝日文庫)。オススメである。
 1人ひとりの被爆者の被爆体験だけでなく、人生
そのもの、核廃絶へのそれぞれ思いをていねいに
聴き取っている。「継承」という面で学ぶべき点の
多い1冊である。

 次回は、その学びの上にたって準備、開校された
岡山労働学校「核ZERO教室」のことについて
ふりかえりたい。
 (つづく)