月刊誌『学習の友』の11月号から、
「ぶらり、時間散歩」というエッセイの連載をはじめました。
お気軽にお読みくださいませ。
第1回「いのち=もっている時間」
「残業って、人権侵害という認識はありますか?」
最近、学習会で時々お話していることです。残業は、
契約時間以上に仕事をすること。そのぶん、職場にい
る時間は長くなり、自分の時間は削られます。
もちろん私たちは、仕事においても「自分の時間」
を使っています。ただし雇われて働く労働者の場合は、
業務命令の枠のなかでの時間。使い方を自由に選べま
せんし、使用者に「使わせている」時間ともいえます。
まっさらで好きなように使える時間とはいえません。
自分で選び方を決められる時間は、私が私でいられ
る時間です。人権とは、私が私でいることのできる自
由や権利のことですから、自分の時間が削られるとい
うことは、私の人権が削られることではないでしょう
か。
昨年亡くなられた医師の日野原重明さんは、絵本
『いのちのおはなし』(講談社)のなかで、小学四年
生の子どもたちに「いのちとはなんだろう」と問いか
け、「いのちとは、きみたちのもっている時間だとい
えます」と語られています。
いのち=もっている時間。たしかに、私たちは誰で
もいつの日か「死」をむかえます。時間は有限です。
1度きりの人生の時間は、誰にとっても貴重でかけが
えのないもの、不当に奪われてはいけないものである
はずです。そしてまっさらで好きなように使える時間
が多ければ多いほど、「私らしく生きる」ことができ
やすくなります。
でも私たちは普段、無意識に時間のなかで生活して
いますし、時間に追われ、時間について考える機会が
少なくなっているのではないでしょうか。
「とてもとてもふしぎな、それでいてきわめて日常
的なひとつの秘密があります。すべての人間はそれに
かかわりあい、それをよく知っていますが、そのこと
を考えてみる人はほとんどいません。たいていの人は
その分けまえをもらうだけであって、それをいっこう
にふしぎと思わないのです。この秘密とは―それは時
間です」
時間への深い考察をふくんだ児童文学『モモ』(ミ
ヒャエル・エンデ、岩波少年文庫)からの一節です。
ふしぎで貴重な時間について、これから分け入って
みたいと思います。