きのう(5日)は、倉敷で岡山県学習協主催の
「ものの見方・考え方」講座の1回目がありました。
10名の方が参加。学習協の学習会に初めて参加の
人もいて、なかなか新鮮な雰囲気でした。
感想交流のときのようすです。
倉敷で来年開催をめざす労働学校の
足がかりになればいいなと思っています。
1回目のテーマは、
「人間とは何か(1)―労働と知性」。
70分ぐらいの講義(わたしが講師でした)と、
30分ほどの感想交流を行いました。
以下、講義の概要です。
一。人間は、なぜ人間となったのか
1。私たちの祖先をたどると
◇ヒトとチンパンジーは、600万~700万年前に共通の祖先から分かれた
*二足歩行の開始→自由になった前足が「手」になっていく。
*この「手」の獲得は、決定的に重要なポイント
*人類は、いくつもの種があったが、最終的に地球上に
生き残ったのは、ホモ属サピエンス種だけ。
*人類の進化は、大きくいって、猿人→原人→新人(ホモサピエンス)の順
*猿人は、600万年~700万年前に、原人も250万年前にアフリカで誕生
*ホモサピエンス(賢い人)は20万年ほど前に、これもアフリカで誕生。
◇ホモ・サピエンスとは、「賢い人」という意味
*圧倒的な“頭脳”が、生き残りを可能にした(『Newton』2010年12月号)
・高度な抽象化の能力(概念を自在にあやつる)
・会話や読み書きの力
・目の前の課題を克服する「問題解決能力」(推論力)
・相手の立場や考えを察する力―他者への共感力。感情への共感。
2。「労働」が、人間らしさを育てた
◇労働とは、人間が道具をつかい、自然や対象に働きかける行為
*人間が生きていくための環境をつくり、ととのえる
◇手を獲得することで、道具をつくり、扱うことができた
*石器、器、縄、衣類、食料を得るための道具や武器……
→道具は、世代をこえて伝承・発展し、多種多様に、より改良をとげていく
→自然にたいする力がだんだんと大きくなる(生産力の発展)
→美的感情も労働から。「かたち」へのこだわり。色彩。
*道具が精巧になると、手もだんだんと器用になっていく。
*手の神経が発達していくと、それが脳の発達を促すようになる。
手は外部探索の感覚器官でもある。手と脳の相互関係。
*火の獲得→やわらかいものを食べられるようになり、
口腔がひろがり、有節音を操れるようになっていく。言語獲得の条件。
◇労働の社会性・・・人間はひとりでは弱い
◇言語獲得の必要性は、協同労働から
*労働のさいの協同・合図・計画・相談・総括・教訓化
*やがて文字の発明へ(経験・技術・文化の世代をこえた蓄積)。
知識・技術の飛躍。
◇動物の「進化」と、人間の「進歩」
*動物は、環境に順応して、自らの体を変化させていく
*人間は、環境に順応しつつも、
環境のほうを目的意識的に整え、変えていく。
・生き方を選択する力をもつ。生の自覚(死の自覚)。
二。労働が社会を成り立たせている
1。人間社会を成り立たせているもの―生産労働
◇人間が生きていくために必要なものをつくりだす
*現在、「人間にとっての有用物」のかなりの部分は、
人間の労働によって「つくりだされている」。
*道具や機械を使い、自然に働きかけ、環境を整えたり変えたり。
*人間は、生産労働なしには、生きていけない。
したがって、労働は「やらなければならない」という性質を強くもつ。
どんな時代や社会でも。
2。社会を支える「働く人びと」-その状況はどうか?
◇「私」の生活を支えている人びとのこと
―市場があいだにあるために見えづらい。
*生活はどうか? 働き方はどうか?
その人の労働は尊ばれているか?
◇「労働のあり方」は、「社会のあり方」と結びついている
*いまの社会は?・・・資本主義社会。生産―売買―消費。
*資本主義社会のもとで働くとは?・・・(第3講義で)
三。人間の「知性」について
1。ひらたく言えば、「考える力がある」ということ
◇人間だけが、考えることができる
*人間の知性は、感覚器官をとおして知覚した対象を記憶し、
これをもとに整理・分析・想像し、また言語によって一般化し、
抽象化してとらえる働き。
*五感を通して得た情報を脳の働きによって「まとめ」「整理し」「考える」
*考える道具としての「言語」-豊かな言葉を獲得することの大事さ
・考える力は、どのような言葉を持っているか(使いこなせるか)と比例する
・手話、点字なども、言葉のやりとり。
・判断・推測・比較・分析・総合・推理、想像・・・などの「考える力」は、
すべて言語によって支えられている。
◇知性の性質と側面
2。人間的理性をともなわない「知性」が膨張・暴走するとき
◇たとえばマンハッタン計画
◇食べものと科学技術ー人口科学物質、遺伝子組み換え作物
◇20世紀以降、科学の技術化までの時間が短くなり、
「効率」「便利」「楽に」「早く」「有用」という価値に重きがおかれ、
「この技術がいかに使われるべきか」ということを「望ましい社会」
との関連づけてとらえたり、社会的同意がなされないまま、科学
技術がひとり歩きしている状況をつくりだしている。
「科学に従事する者は、単に科学の世界だけでなく、芸術や
歴史や文学や政治にも親しみ、自分を大きな世界全体の中
でとらえ、自分がなそうとしていることの意味を絶えず問い直
すことが必要」
(池内了『科学の考え方・学び方』岩波ジュニア新書、1996年)
3。知性をめぐるたたかい
◇知性を「資本の論理」に従属させようとする問題
*価値観をめぐる階級闘争
*利益、効率、競争、倹約、・・・
*生命、自由、人権、コミュニティ・・・
◇「考える力」をコントロールしようとする(あるいは考えさせない)支配階級
*マスコミ、教育をつかった大規模かつ持続的な思想攻撃
◇事実を事実として認識できないようにしむける
*社会的バイアス(偏見・先入観)、原因の見誤り(ミスリード)
・「自己責任」「国際競争力」「企業あっての労働者」「抑止力」「超高齢化社会」
◇長時間労働、ゆとりのない生活で、考えることを物理的に奪う
◇私たちを分断する、競争にかり立てる言葉・表現の氾濫
◇いまこそ、ぶれない世界観・人間観・倫理観
―はたらくものの哲学が必要
以上。
来週(11月12日)は、「人間とは何か(2)―社会と文化」です。
くらしき健康福祉プラザ3階研修室。18:30~20:30。
感想文をいくつか紹介します。
◆歴史で習ったような内容を深く学べたと思います。
色々とつながって進化してきた過程がわかって
おもしろかったです。
◆久しぶりの労働学校でした。基本を学ぶことは
自分自身の思想を維持するために、とても必要な
ことです。とくになかなか本が読めない中では、
気づきの場所、発見の場所にもなります。
◆人間はもっぱら労働で生きている。言語なしには
考えることができない。小学校1年生で1500語と
6000語。この事がインパクトが強すぎて自分の
子育ての反省点を見つけました。少しずつ勉強を
して、吸収していけたらなと思います。
◆私は小説を書いています。小説は、つまるところ
思想であり、ものの見方・考え方を学ぶことはとても
大切です。そう思ってこの講座に参加させていただき
ました。一口にいって、たいへん面白かった。とくに、
言語をもっているから考えることができる。言語なし
には考えることはできない。そうだと納得しました。
◆50歳を過ぎて、自分自身を見つめ直してみようと
思い、この講義に参加してみました。第1講義から
「人間とは」と歴史のことから始まり、哲学者の方の
引用文があり、その内容の難しさに戸惑いましたが、
物事をじっくり考えて、対応していくことがいかに
必要かを同時に考える機会になったと思います。
◆猿から人間への進化の過程を改めて伺ったことで
人間の特徴のひとつ、他者の思いに共感するということ、
言語(書き言葉が話し言葉につながる)についてのこと、
自分自身の言語の貧しさを痛感し、これからこの講座で
学ぶことを機会に学習していきたいと思いました。
人の痛みがわかることこそ、今の子育ての中で大切な
ことではないでしょうか、と感じました。どうもありがとう
ございました。