長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

休暇のマネジメント

『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』
(髙崎順子、KADOKAWA、2023年)を読み終える。

これは、はげしくオススメの1冊。

著者は、バカンス大国といわれるフランスに在住。
移住当初は、長期休暇の文化に慣れず戸惑っていたが、
次第にバカンスの効能について実感。
日本人の「休み方の文化」を変えるべく、
本書を執筆(熱量すごいけど、文体はやさしく読みやすい)。

フランスの労働者・管理者への調査・インタビューにもとづいた、
豊富なバカンスの仕組み化と実践例が非常に参考になる。
「うちの業界では無理」という反応も想定し、
バカンスを取りにくいであろう医療や保育や自営業の
職場などでのバカンス取得の工夫や考え方も紹介。

フランスの有給休暇の取得方法は一般的な労働者の場合、
夏の期間に3週間、クリスマス期間に1週間、その他の期間で1週間、
合計5週間(法律で義務化されている)。
日本のように1日細切れなどではない(時間休とか理解不能だろう)。
まとまった長期余暇をとるのが基本だ(病気休暇などは別にあるので安心)。

著者の労働組合への言及は少ないが、日本でも、
労働組合として団体交渉、労働協約締結を通じてできることは
たくさんあるし、本書から学ぶことは多いと思う。
有給休暇の連続取得を協約で勝ちとる
(たとえば5日間は連続取得を協約で義務化するなど)、
また仕組み化するために具体的な業務改善を組合から提案するなど、
労働者側からの発信も重要だと思う。

ちなみに! 私は今年8月に2週間のハーフバカンスを取る。
来年以降も取っていこうと思っている(取りやすいのは8月)。
学習運動の仕事上、おそらく連続休暇の上限は3週間だけど、
そこを目指したい。まずは今年実践してみる。
長期休暇の意義や役割を「自分の言葉で、実感をこめてスラスラ語れる」
ことを目指したい。
本書で紹介されているフランス人の「バカンスの言葉」がそうであるように。

以下、本書より自分のためのメモ。

「今の日本には、働き方と同じだけ、休み方を考えることが必要だ」(8P)

「バカンス文化の始まりの時代から、『社会にはバカンスが
なぜ必要か』『どんな過ごし方をするのが望ましいか』を、
国レベルでしっかりと言葉にして考え、整備してきた」(22P)

「まとまった年次休暇とは、余暇=『自分の好きに使える、
自由な時間』のこと。そして余暇とは、生きる喜びと、
人としての尊厳を知ることができる時間である」(30P)

「長期間かけて余暇を過ごした経験のない庶民は、その価値も
意味も理解できていなかった、ということ。働きづめに働いてきた
人々には、週休の1日ですら、『働く』以外の過ごし方がピンと来ず、
『休みの日には別の労働をする』風習があったくらいでした」(35P)

「『生きる喜び』を年次休暇で国民に感じてもらうには、
公助が必要だった」(51P)

「労働時間が収入に直結する自営業者は長期休暇なぞ
取れないのでは…と思いがちですが、ここはバカンスが
『人としての尊厳』として普及している社会。自営業者でも
休める仕組みと理解があります」(80P)

「まず業界・職場全体で『休む』と決めること。必ず休む
前提で仕事と年間計画を段取りし、優先順位を明確につけて、
業務管理をすること。そして長期休暇取得を優先事項の高い
『業務』として扱い、遂行する思考」(81P)

「『休めたら休もう』『休めなかったら仕方ないから働こう』は、
あり得ない。なにがなんでも休む。そしてその責務を担うのは
雇い主というのが、フランスのバカンス制度の柱です。
年次休暇の運用は、マネジメントの職務なのです」(82P)

「だからといって仕事をイヤイヤやっている人は彼女の
周りには見当たらず、Rさん自身も『仕事はとても好き』だそう。
同僚との関係も良く、不満はありません。『それでもバカンス
なしに仕事をすることは、考えられないです。区切りなく
延々と仕事が続いてしまったら、私はきっと心身ともに病んで
しまう。仕事を愛し続けるには、そこから離れて、心と体に
栄養を与える時間が必要です。仕事に生きる発想やアイデアを
得るためには、自分が広くものを見なければならないですしね。
バカンスから戻ると、より自分の反応が良く、生産性が
上がっている自覚もあります。もしバカンスがなかったら…
想像できないけど、死刑判決を受けたように感じるかも』。
最後は冗談めかした口調だったものの、その目は笑って
いませんでした」(94P)

「週末の休みだけではできないことが山ほどあるし、バカンスは
自分のことを考えて、自分を大切にできる時間です」(111P)

「看護師がバカンスを取ることを悪く思う患者さんには、
フランスでは会ったことがないです。みなさんむしろ、
『しっかり休んできてね』と送り出してくれる。看護師が
休養できないと、その余波は自分達に返ってくると知っている」(132P)

「『休暇のマネジメント』の考え方や実践法にもやはり、
原則的とも言える4つの共通点が見えました。その1.年次休暇は
給与と同様、人件費の必須項目と考えて計算する。その2.長期
休暇のメリットを認め、業務の一時的な停滞や縮小を恐れない。
その3.前もって段取りし、早めに決める。その4.業界・仕事の
特性を反映し、合理的かつ明快なルールを設定する」(138P)

「夏は社会全体がペースを落とす。フランスではもう何十年も
そうして回ってきている」(143P)

「もしもバカンスがなかったら? はぁ……それは大変だなぁ。
私達の仕事は肉体労働ですし、心も体ももたなくなってしまう。
長期休暇を取らないなら、働くのは週3日くらいにしないと
いけませんね」(145P)

「休暇取得を含め、医療福祉職のウェルビーイングに配慮した
人員管理を怠ることは、その職務上でケアすべき対象の人々を
『危険に晒す行為』につながるという認識が、フランス社会
にはあります」「保育士の長期休暇は労働問題だけでなく、
保育の質の面でも、非常に重要」(169P)

「病気など、余暇以外の私的事情の休業制度を別に整えることが、
1つの大切なポイントです。病気休業や家族事情の休業の
仕組みが別にあるヨーロッパ諸国では、労働者は年次休暇を
バカンス、つまり余暇時間のために心配なく使えています」(296P)