長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

「1人の認識では物事が見えきれない」

火曜日(27日)の夜は、
もみの木保育園の月イチ職員学習会。
ものの見方・考え方の2回目。

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事実から出発することはそう簡単ではない。
考える力があるから間違いやすい。
認識深化の集団的努力必要。
部分で一般化してしまったり、先入観や経験がじゃましたり。
保育もそうですが、社会認識も。よい感想交流できました。


以下、講義の概要。

一。「ありのままに見る」ことの難しさ
 
1。事実とは
  ◇あるとき、あるところに「起こった」もしくは
   「あった」ことがらのこと。
  ◇正しい認識をしようと思えば、事実の確認は出発点として欠かせない
  ◇しかし、事実もやはり「部分」的認識から始まる。
   認識を深めていく努力が大事。
 2。事実を手がかりに認識を深めること(これを唯物論という)が、
  じつは難しい
  ◇認識の誤りは、客観的事実の反映が主観の側の判断でゆがめられるから。
  ◇認識の過程で生まれる「決めつけ・先入観・思い込み・偏見・見落とし」
  ◇自己成就(じょうじゅ)予言
  ◇そのほうがラクだから・・・(つまり誰でも陥る危険がある)
 3。事実から出発するものの見方を、哲学では「唯物論」という
  ◇哲学における2つの世界観
  ◇存在(物質的諸関係)が、意識を規定する(反作用はありながらも)
   という視点

二。社会認識をどのようにつくるか
 
1。私たちの社会認識はどのようにつくられるか
  ◇自分で直接得た認識と、他者(人、メディア、本など)から
   得られる認識。
  ◇考える時間分量
   ―「自分の生活や仕事のことが圧倒的」「社会や政治のことは少し」
  ◇社会認識―知る努力、そのための時間をつくる努力が欠かせない
 2。事実をありのままに見る大切さと難しさ
  ◇事実と違うことも、人間は言えるし、想像できる。
   事実を隠すこともできる。
  ■「ポスト真実」の時代に
   ―主体的に情報取りにいく力、メディアリテラシーが必要。
  ◇事実を集め検証することはたいへん。学習。調査。討論。労力がかかる。
 3。集団の認識で、事実のたばを集め、認識を深めていく。
  ◇ひとりひとりの認識には限界がある―狭い認識を正し、広げ、深める
  ◇会議・ディスカッション・情報共有の場を大事に。そうした場を
   たくさんつくる。
  ◇本や雑誌や新聞(まともな)を読むこと―社会や政治に強くなる
  ◇ネット、SNSも活用を。「部分情報」という前提に注意しつつ、
   事実を集めるのに適す。
 4。社会へのたしかな認識を―社会の担い手として育ちあう場を
  ◇社会のしくみを知る。動き方を知る。つまり社会科学が大事な
   役割を果たす。
  ◇知ること学ぶことと同時に、トレーニングの必要性
  ◇日常の変化は目立ちにくい。視野のスケールを変えてみる(歴史を学ぶ)。

以上。


感想文をいくつか紹介。

■認識の誤りって怖い。自分の身のまわりの認識
誤りが生活や仕事に影響するのも大変だけど、
自分の社会への認識誤りが知らないうちにあぶ
ない方向へ社会が進んでいても気づけないことに
つながるのが怖いと思いました。自分の意見を
外に出す。相手のことも聞いていく。大切にした
いです。

■日常を積み重ねることのみになると、“疲れた
もの言わぬ労働者”になる。それを今回の学習で
視野を広げさせて頂いたことがありがたかった
です。新聞をとりたいと思います。

■認識のむずかしさをあらためて思いました。
1人の認識では物事が見えきれない。社会全体
が見えないなあと思いました。他者が伝える認
識が正しいかをキチンと判断できる考える力を
身につけないといけないなあと感じました。

■自分の認識だけで行動してしまうと、間違った
方向にいってしまうことが多いということ。話
しあって、他人の意見も聞き、認識を深めてい
けたらいいなと思いました。今の時代、ネット
やテレビで本当に正しい情報なのか、間違った
情報なのか、判断することが難しいなと思いま
した。正しい情報を判断する力も必要なことを
学びました。

時間を考えることは、人生や生活を考えること。

91期岡山労働学校「時間を考える教室」も今日最終講義。
第5講義以外の講師を担当し、
講義を通じて自分自身の時間に対する考え方が
さらに豊かに広がったと思う。
参加者のみなさんの感想や討論も、とても学ぶこと多かったです。

時間を考えることは、自分の人生や生活において、
何を大事にするかを考えることにつながります。
労働者教育でも、労働時間論をさらに強めていきたいです。


■「人間はじぶんの時間をどうするかは、じぶんで
きめなくてはならない・・・。だから時間をぬすまれ
ないように守ることだって、じぶんでやらなくては
いけない」
(ミヒャエル・エンデ『モモ』岩波少年文庫)

■「じつは、何も考えずに他律的な時間に流されて、
行動を他とあわせていくことは案外簡単なことです
が、あり余るほどの自由時間やバカンスを自分の力
で充実したものにしていくためには、自律的な生活
のリズムづくり、創造的な発想、仲間を組織して楽
しみをつくり出す力などの、すぐれて人間的な能力
が求められるのです」
(増山均『アニマシオンが子どもを育てる』旬報社)

■「労働時間を短縮すること。それは労働組合や労
働者のたたかいなしには進みません。自由時間が増
えれば、『仕事以外のことにも価値がある』ことに
気づく機会にもなります。長時間労働が恒常化する
と、そのことに気づくことさえできなくなります。
仕事は人生そのものではありません。それぞれが生
活のなかで大切にしているほかの何かと組み合わせ
る要素のひとつです。自由な時間はたんなる『遊び』
の時間でもなく、自分が自分であることを確認し、
生活を楽しみ、社会や地域のなかで人とつながって
生きることの意味を創造する時間でもあります。労
働時間を短くすることによって、私たちはそのこと
の意味を実感として感じることができるのです」
(長久啓太「生活のゆとりと人間らしさ」、『学習の友』2016年2月号)

この夏は難しい理論書を読もう

最近読み終えた本。
ここ1か月ぐらいです。理論書がないね・・・。
この夏は難しい本よもっと。


『身体へのまなざしーほんとうの看護学のために』
         (阿保順子、すぴか書房、2015年)

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ケアする人間とケアされる人間。身体の相互浸透。
ではその身体とは何か? 臨床の実践知もふまえての考察。
清拭の手の力のエピソードが印象深い。


『ココ・シャネルという生き方』(山口路子、新人物文庫、2009年)

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シャネル入門書のよう。読みやすい。
彼女への評価はさまざまだろうけど、
世間の常識に迎合しない生き方は強い。

「あたしは誰のものでもないのよ、と言える
喜びはすばらしい。あたしの主人はあたし」
といえる強さ。


『まんが 人体の不思議』(茨木保、ちくま新書、2017年5月)

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「小宇宙」ともいうべき複雑で神秘にみちた人体。
そのしくみと働きについて漫画で描いた入門書。
産科医である著者はユーモアたっぷり。
生物進化や医学史も織りまぜつつ、
ほほお!という発見の面白さが貫かれている良書。


『余暇という希望』(薗田碩哉、叢文社、2012年)

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「暇こそは、無為であるが故に人を未知の可
能性に向かって開く舞台となり得るのだし、
また無益であるが故に何ものにも束縛されな
い人間的な自由の糧となり得る。暇という時
間こそ人間の生きる支え、あるいは生命の原
動力なのだ」


『精神科ナースになったわけ』(水谷緑、イースト・プレス、2017年4月)

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漫画。精神科病院に勤めている看護師の視点から、
患者の状態や内面をていねいに描く。
精神疾患の患者さん、ケアする側の姿勢など、
なるほどと感じた。とてもよい。ソワニエ授業で紹介した。

 

 

『「人間の尊厳」を考えるための練習問題』
      (岸邦和、幻冬舎ルネッサンス新書、2015年)

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間違いも散見されるが、「尊厳」という難しい
概念を考えるための材料にはなるかな。
「お互いを人間として認めあう」
「人として扱う」「人間らしさ」…。
人間への洞察がいずれにせよ必要なのね。


『アキラとあきら』(池井戸潤、徳間文庫、2017年5月)

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まあ面白かったですけど、ちょっと経営者視点が
強かったので、池井戸作品のいつもの胸アツ的な
興奮はあんまりなかったような。
700ページこえるなかなかの分量でした。


『18時に帰るー「世界一子どもが幸せな国」オランダの
           家族から学ぶ幸せになる働き方』
       (1more Baby応援団、プレジデント社、2017年6月)

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オランダよい。日本と違いすぎてめまいがしますけど。
労働時間も自分で決められる。
何が幸せか、価値を置くかの選択ができる社会。


『“生きる”を支える看護ー西淀病院発・希望の医療』
 (矢吹紀人著・淀川勤労者厚生協会編、日本機関紙出版センター、2017年7月)

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10のエピソードはどれも温かくじんとくる。
困難を前にして前向きな葛藤ができる力。
どんな人間観で患者に寄り添うのか。
理念のたしかさとチーム力を感じた。

「歴史を学んで憲法の重みを感じた」

日曜日(25日)の午後は、
民主青年同盟岡山県委員会の連続学習会で、
憲法学習の2回目。

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今回は「日本国憲法誕生の背景ー歴史を学ぶ」というテーマで、
明治維新以後の日本の戦争の歴史と加害の具体的内容、
憲法の言葉に込められた意味と決意について80分しゃべりまくり。

感想の一部紹介します。

■歴史を知ることが憲法を知ること、自分が
今何をすべきかにつながると思いました。い
ろいろありすぎて濃すぎて消化不良ですがも
う一度復習します。

■戦争の歴史を学ぶことで、日本国憲法の価値
を改めて感じることができた。

■日本国憲法ができるまでの歴史を学んで憲
法の重みを感じた。戦争をしていた頃は人を
人としてみないことがあたりまえで人間が人
間じゃなくなってある様が気持ち悪く感じた。

■今日の話を聞いて、国の隠し事の多さに驚
きました。国民に、人間の命を軽くみる教育
をして、人間を道具として使うのがとても恐
ろしいことだと感じました。また、「数は個
を消してしまう」という長久さんの言葉が印
象的でした。自分自身を見てほしい思いがあ
るので、私も相手を個人として見ていくこと
を心に決めました。

労働組合の活動をつないでいくのは大変

青森から帰ってきた土曜日(24日)の夜は、
岡山県医労連に加盟している、
ももたろう会労組の定期大会でした。

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「4回」ということからわかるように、
まだまだ若い労働組合です。

大会前の事前学習で
労働組合の基本をあれこれ40分ほど。

感想交流でよい交流もできました。
組合を中心に担ってきた人たちが辞められ、
新しい執行部は四苦八苦。
労働組合の活動をつないでいくってほんと難しいです。

青森県民医連の青年憲法ゼミナールへ

そして先週金曜日(23日)は、午後から
青森県民医連第1回青年憲法ゼミナールでの講師仕事でした。

朝イチで岡山空港から羽田へ。
そして羽田から青森空港へ。11時15分着。
バスで青森駅へ移動。会場はそこから徒歩10分。

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8月のねぶた祭に向け、ねぶたが管理されている倉庫が近くに。

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会場の会議室からは、陸奥湾がきれいに見渡せました。
海の向こうは函館ですな。

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青森県民医連で初めての試みとなる「青年憲法ゼミナール」。
青年委員会が主体となって準備・運営されていました。
すばらしい。

この日は3回目のカリキュラムで、
講義は、「憲法の人間観」をテーマにあれやこれやお話しました。
個人の尊重や個人の尊厳について深まりました。

終了後の懇親会も楽しく交流できました。
楽しい人が多いです。
青森民医連のポテンシャルすごい。

この日は青森市内で泊まり、
土曜日はゆっくり始動し、お昼の便で岡山に帰りました。

「これを伝えるしかないと思った」

遅くなりましたが、先週の労働学校(22日)の報告です。
91期「時間を考える教室」の第7講義は、
「労働時間短縮の歴史とその原動力」でした。
参加は11名でした。

以下、講義の概要です。


一。資本主義社会では、労働時間は伸び縮みする
 
1。資本主義以前では
 2。労働契約(つまり交渉の力関係)によって労働時間の長さが決まる
  ◇「雇う―雇われる」関係性の労働が支配的に。力関係で伸び縮み。
  ◇産業革命後、一気に伸びた労働時間。機械化による変化。
  ◇労働時間を法律で制限するたたかいが起きる
  ◇8時間労働制を求めたたたかい。メーデー(5月1日)の起源。
  【8時間労働制について、あらためて確認】
 3。労働時間の制限は、20世紀に大きく前進
  ◇第1次世界大戦(1914~1918)を転機にして起った変化
  ◇1936年、「人民戦線」の時代に、フランスで勝ちとられた団体協約
  ◇第2次世界大戦と国際連合発足
  ◇尊厳=人間として労働者を扱うこと。人間らしい生活を保障すること。
 4。あらためて、労働組合の役割について確認。労働者の尊厳を守る組織。
  ◇立場の強弱がはっきり。尊厳が侵害されやすい領域。

二。残業地獄は生産性にも深刻な影響
 
1。起きてから13時間が集中力の限界
 2。睡眠時間が短いとメンタルになりやすい
 3。寝だめはダメ
 4。月45時間の残業をこえると、健康リスクが高まる

三。日本での当面必要な労働時間規制
 
1。残業時間の上限規制と割増残業代の支払い
  ◇日本の労働法制に2つの決定的な弱点がある。
 2。残業時間の上限規制とインターバル規制を行う労基法改正を
  ◇残業時間の上限
  ◇勤務間に最低11時間の連続休息時間を確保するインターバル規制を導入。
 3。残業代による長時間労働抑制
  ◇長い残業時間には割増率を増やす
   「賃金不払い残業」へのペナルティー強化
  ◇「賃金不払い残業」や残業時間のごまかしを許さない法規制を強化する
 4。労働法を守らせる監視体制と違法行為への社会的制裁を強化する
  ◇労働基準監督署の体制を大幅に強化する。


以上。


感想文をいくつか紹介。

■8時間労働に至った歴史の重みと先人の思いを
ムダにせず、人間の“尊厳”を守るため、あらためて
長時間労働の問題にむきあわねば!!と思いま
した。分かりやすく感動的なお話ありがとうご
ざいました。

■今日の学習内容は本当に「要」。これを伝える
しかないと思った。少しでも早くヨーロッパ並の
労働環境にまで持って行きたい。

■労働時間が短くなったら、みんなの自由が広が
る。そうなるために、声をあげねば。

■不払い残業に対する残業代2倍はいい! 経営者
には本当に圧力をかけないと本気で取り組んで
くれない。あとタイムカードの記録を毎月給与
明細と一緒に本人に渡すべきだと思います。

■労働時間に関して国内の大変な現状を改めて
振り返れました。班での話もいろいろな立場の
お話を聞けたし、じゃあ自分が学んだらこれか
らどうするのかも皆で意見が出せて良かった
です。小さな1歩でも少しずつ日本の現状が良
くなるように進めばいいと思いました。

■日本は「インターバル規制」を導入すべきだ!
と強く言いたい。国が過労死や長時間残業の
対策をしなければ、日本人の働き方は変わらな
い!と感じた。

明日、今期の最終講義です。

91期岡山労働学校「時間を考える教室」第8講義(最終講義)は
6月28日(水)18時半~。
「ゆとりある私的時間の創造―時短革命の時代」

人間らしい生活、豊かな生活とは何かを考えながら、
時短がもたらす社会的効果も問題提起。
今期の最終講義です。単発参加OK。詳細チラシに。

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あっぷあっぷと。7月中旬までかなあ。

あっぷあっぷと喘ぎながら仕事をしております。
今月はあと9日しかないのに、講師仕事はあと8回あります。
さらに、もろもろの実務活動などもあり・・・。

まあ、6月は毎年こんな感じでありますが、
今年は労働時間に制限があるので、
いろんなものをカットカットで活動しています。

ほんとうは労組訪問やいろんな人との関係構築に
時間を取りたいのですが、まあ8月以降の課題ですね。

とりあえず、7月中旬に2冊目の本の
原稿を完成させるまでは、気分的に落ち着きません。


明日は青森で講師仕事です・・・!
美味しいもの食べてこよっと。

本日。「労働時間短縮の歴史とその原動力」

91期岡山労働学校「時間を考える教室」第7講義は
6月22日(木)18時半~。
「労働時間短縮の歴史とその原動力」。

労働時間を短くする、制限する労働者のたたかいの歴史。
そしてその原動力は何だったのかついて学びます。
単発参加OK。詳細チラシに。

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今日は実務の1日でした。

今日はほとんど実務、実務、実務でした。
会報印刷して、請求書つくって、
郵送して、配達の準備して。

なんとか目処がついた。
明日は雨みたいなんで、やっぱり事務所でゴソゴソしますかね。

実務って始まる前はちょっとユーツですけど、
終わるとスッキリしますね。
安倍首相も早く辞任してスッキリしたらどうでしょうかね。

ユマニチュード(人間らしさ)

『ユマニチュード~なぜ、このケアで認知症高齢者と心が通うのか』
     (イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ著、
                               本田美和子日本語監修、誠文堂新光社、2016年)
を読み終える。

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人間の尊厳の問題から、それがケアの理論と技術に
つながっているということに感銘を受ける。

これって、労使関係ふくめ、人権問題が起きやすい
領域にも考え方や姿勢として適応できると思います。
とても大事なものの見方です。


以下、自分のためのメモです。

■ユマニチュードとはフランス語で「人間らしさ」を
意味します。(4P)

■ユマニチュードは、「人間らしさを取り戻す」こと
も含んでいます(5P)

■人らしさとは何でしょう。人間はただ生まれてきた
だけでは人間にはなれません。誰かから必要とされ、
「あなたは人間です」「あなたのことが大事だ」と
尊重されることによって、初めて人間らしさを獲得
し、人間の社会に属することができるのです。(5P)

■ユマニチュードとは、「あなたは私と同じ価値を
持っています」と相手に伝える、一連の一貫した
哲学とそれを実現させる技術です。(7P)

■尊厳とは人間であることを説明する言葉です。人
間がこの世に生まれたとき、その人に何をするで
しょう。私たちは話しかけます。体を洗い、服を
着せます。見つめます。名前を呼びます。
 ナチス・ドイツがつくった強制収容所では、話す
こと、歌うこと、見ることが禁じられました。自分
の名前を忘れさせ、名前の代わりに番号を付け、腕
にその番号を入れ墨し、非人間化の条件を整えまし
た。あなたが人間であることを忘れさせようとした
のです。人間ではない動物であれば殺してもいいと
いうわけです。人間としての条件をなくしたら、ユ
ダヤ人や障害者、同性愛者やマイノリティーを大量
に殺し、焼却することができました。
 高齢者が40人も相部屋に詰められ、ベッドに寝か
され、糞尿まみれの姿で放置されているとき。話か
けることも、アイコンタクトもしないとき。立とう
とする人間を横たわらせようとするとき。触れるど
ころか肉を刻むとき。それはケアをする人々が無意
識下に行っている人間性の否定です。
 老人を対象にした、「無意識下の人間性の否定」
が世界中に起きていて、私もそこで仕事をしていた
のです。(39P)

■「よい扱い」とは、それを自覚し、学ばなければ
体得できないものなのです。(44P)

■人が自律した自由な社会はどんなものでしょう。
強者がすべてを決めて、それに服従すればいい。
「それは間違っている」と思っても意見を言えない。
少なくとも、そういう社会でないのは確かです。恐
怖心をもって強者に平伏し続けることは、ユマニチ
ュードの考え方とは相容れません。
 ユマニチュードの哲学においては、すべての個人
に尊重すべき価値があると考えています。したがっ
て、患者も、看護師・介護士も等しく価値がありま
す。病院や介護施設だから、その価値が損なわれて
もいいはずがないのです。(89P)

■自律の尊重。これはユマニチュードが最も大事に
している価値観です。自律とは本人が自分のために
自由に選び決定する能力です。(109P)

■誰かをもの扱いするとき、そうしている人もまた
人間性を失います。(118P)

■尊重の根本にあるのはなんでしょう? それは、
相手を人間として認めることです。人を人として
認めるためには、まず、私たちは人の特徴が何で
あるかを認識しておく必要があります。(166P)

■「私は人間だ」と感じることができるような要素
を足していくたびに、その人の状態はよくなります。
                  (170P)

■人が人として扱われる。それは尊厳と呼ばれてい
ます。(171P)

■尊厳の感覚は、「自分は人である」という認識を
可能にするもの。(178P)