長久啓太の「勉客商売」

岡山県労働者学習協会の活動と長久の私的記録。 (twitterとfacebookもやってます)

88期労働学校第4講義「木も森もみる」

一。前回までのおさらい
◇考えて行動する、それが人間。
―考えるときに、「ゼロ」から考えるのではない
  *これまでの経験、自分のなかにある知識、
相談する(他者、本やネット)
  *“ものさし”=ものの見方・考え方(世界観)
◇誰でも、なんらかの、ものの見方・考え方
  =世界観を持っている
  ◇世界を、あるがままに把握する「世界観」
   (ものの見方・ものさし・メガネ)を!
  ◇弁証法(哲学の用語)は、世界を生き生きと
   とらえる重要なものの見方
  ◇「どうせ・・・」ということ←弁証法とは反対の見方
  ◇弁証法的でない見方は、支配階級(権力を
   もつ人)の利益と結びついている
  ◇世界の生きた姿をとらえる“努力”を!
   *弁証法は、すべての対象・ものごとは、
    「動いている」ととらえる。
  ◇発展の見地にたつのが、弁証法の立場
    ―簡単ではないが、楽しい努力
  ◇変化のしかたにも、法則性がある
   *量的変化と質的変化、矛盾が発展の原動力、
    肯定をふくんだ否定、など。

二。対象を「つながりの(連関)」のなかで把握する
 1。弁証法の大事な心得のひとつ
   ―バラバラに考えない、全体をみる
  ◇どんなものも、つながりのなかで
   存在する、ということ
   *あるものが「ある(いる)」ということは、
    その存在の質を規定したり、その存在を
    支えたり、影響を与えている「他のもの」が
    あるということ。
   *まったく孤立して存在しているものはない。
   *「木を見て、森を見失わず」

   「われわれが自然あるいは人間の歴史あるいは
   われわれの精神活動を考察すると、まずわれ
   われの前にあらわれるのは、連関と相互作用が
   無限にからみ合った姿」
            (エンゲルス『空想から科学へ』)

  ◇たとえば、生物多様性。
    (『Newton』2010年6月号より)
   *自然との「関係性」。生物どうしの「関係性」。
   *生物は、たがいに密接な関係をむすんで
    生きている。1種だけで生きていける生物は
    いない。逆にたった1種のふるまいが生態系を
    変えることも。

  ◇『いっぽんの鉛筆のむこうに』
     (谷川俊太郎文ほか、福音館書店)
   *人間は、たった1本のえんぴつすら、
    自分ひとりだけではつくれない
   *もののうしろに「つながっている」もの

    「君が生きてゆく上に必要な、いろいろな
    物をさぐって見ると、みんな、そのために
    数えきれないほどたくさんの人が働いて
    いたことがわかる。それでいながら、その
    人たちは、君から見ると、全く見ず知らず
    の人ばかりだ。この事を、君は、へんだな
    あと感じたね」
    (吉野源三郎『君たちはどう生きるか』岩波文庫)

  ◇「わたし」(谷川俊太郎ぶん、長新太え)
   *わたしは、いろいろな「顔」をもつ。
    わたしは、どんどん変化する。
   *年齢、地域、仕事、環境、社会、時代・・・

    「人間は、他者なしでは、新しい自分になれない」
      (平野啓一郎『私とは何か-
        「個人」から「分人」へ』、講談社現代新書)

    「人間は、自分1人では『自分』というものを
    育てることができず、人間になることはでき
    ない。人間仲間によって育てられるなかで、
    その仲間を(他人を)自分のなかにとりこん
    でいくにつれて、しだいに『自分』というものが
    育ってくる」 
      (高田求『新 人生論ノート』新日本出版社)

   *人と人とのつながりは、個人の外にあるのと
    同時に、それが同時にそのまま個人の内面を
    つくる。わたしのなかに「他者」や「社会」が入
    り込んでくる。そうした関係性を考え、構築す
    ることが大事。どんな「つながり」(人間、自然、
    地域、社会)を大事にしていくのかという選択。
    どんな自分をつくるのかと密接不可分。

   *ただ、一生のうちで、じっさいに出会える人、
    就ける職業、行ける場所、できる趣味は限ら
    れている・・・。読書(映画や芝居も)は、時間・
    空間をこえて、無限の出会い、疑似体験が
    可能。「自分づくり」「つくりなおし」が濃縮的に
    できる。

  ◇なぜ自民党政治は、ここまで「アメリカいい
    なり」なのか
   *歴史的な「つながり」―1945年の敗戦から
    約70年間、アメリカへの従属
   *政治的つながり、経済的つながり、
    軍事的つながり、思想・文化的つながり・・・

 2。個々の姿、部分だけをみてしまう傾向
       ―人間の認識過程でつねに陥る危険
  ◇私たちの目の前に見えるのは、
       「現象」「結果」「瞬間」としての姿
   *認識の出発点は、つねに「部分」

   *現象の背景にある本質へ認識を深める努力
   *結果を生み出した原因へ認識を深める努力
   *木も森もみる。森だけでなく木も。
    木だけでなく森も。木と森の往復運動。
   *たとえば、「生活と労働から疾病をとらえる
    見方」について(資料参照)

  ◇専門化、細分化してきた学問・技術
   *科学的思考のひとつのステップとして、
    区別する・分類する・細分化する・固定して
    みる、という過程。森を遠くから見ていた
    段階から、「木」を1本1本細かくみていこう、と。
    しかし逆に森が視野から抜け落ちる危険。
   *ものづくり、職場の仕事の仕方なども、
    どんどん細分化。専門的に。
    社会的分業と、職場内分業。

   *医療分野でも、専門化・細分化はすすむ

    「通常、医療現場では、患者の病状、疾患
    別(臓器別という名称もある)に病棟が編成
    されている。人間を切り取って、部分で見る
    ことがごく普通に行われている。気をつけて
    いても、それが日常的であればいつの間に
    か『パーツ』としてとらえるようになる。経験を
    重ねれば重ねるほど、それは『当たり前』に
    なる」
     (柳田邦男・陣田泰子・佐藤紀子編集
     『その先の看護を変える気づき
       ―学びつづけるナースたち』医学書院)

  ◇科学や技術も、幅広い・歴史的視野が必要
   *20世紀以降、科学の技術化までの時間が
    短くなり、「効率」「便利」「楽に」「早く」「有用」
    という価値に重きがおかれ、「この技術が
    いかに使われるべきか」ということを「望まし
    い社会」との関連づけてとらえたり、社会的
    同意がなされないまま、科学技術がひとり
    歩きしている状況をつくりだしている。

    「科学に従事する者は、単に科学の世界
    だけでなく、芸術や歴史や文学や政治にも
    親しみ、自分を大きな世界全体の中でとらえ、
    自分がなそうとしていることの意味を絶えず
    問い直すことが必要」
     (池内了『科学の考え方・学び方』
                  岩波ジュニア新書)

  ◇「結果を出すこと」(利益をあげること)のみが
    追求される傾向など
   *企業的価値観が、人間的評価を決めて
    しまう傾向。評価の一面化。
   *運動なども、目の前のことに埋没してし
    まうと、射程の長い戦略がもてなくなる

  ◇ゆとり・余裕がないと、そういう見方に陥りやすい
   *人間への見方、社会への見方が、
    表面的・部分的・一面的に

 3。弁証法的でない見方は、支配階級の利益と
   結びついている(繰り返し強調)

    「ここで注意する必要があるのは、それが
    政治や経済の上で支配的な地位について
    いるものの利益と結びついてくる、というこ
    とです。つまり、木だけを見て森を見せない
    こと、現状をどこまでも安定した本質的に
    不変のものであるかのように思わせること
    は、かれらにとって、つごうのいいことなのです」
     (労働者教育協会編『新・働くものの
         学習基礎講座1 哲学』学習の友社)

  ◇消費税率、日本は低い??
  ◇政治は政治、経済は経済、文化は文化。
   うちの会社はうちの会社。密接に関わって
   いるが、バラバラに考えてしまう傾向。
  ◇時間を奪うこと=「ゆとり」を奪うこと。
   考える、集まることを困難にする。
  ◇「変革の立場にたつ」ことが、私たちの
   ものの見方を磨くうえでは欠かせない。

三。全体(森)をみるうえで大切なポイント
 1。比較する(地動説から天動説へ)
  ◇井の中の蛙にならない。
   「あたりまえ」「常識」も、つくられてきたもの。
  ◇学費問題、対米従属、選挙制度、
   ・・・とくに日本の「常識」は世界では非常識

 2。成り立ち、歴史、背景をみる
          ―本質に近づくステップ。
  ◇たとえば人間への見方。
    たとえば日本の平和教育の狭さ。
    歴史のなかでみる。 
  ◇過去を知ることは、現在をもっとよく
   理解するため

 3。集団で認識する
   ―認識を深める努力のもっとも大事な方法
  ◇みんなで協力しあいながら「木も森もみる」
   ―討論。本を読む。雑誌を読む。