『それを、真の名で呼ぶならばー危機の時代と言葉の力』
(レベッカ・ソルニット、渡辺由佳里訳、岩波書店、2020年1月)を読了。
読みごたえのあるエッセイであった。
著者は米国の作家・歴史家・アクティヴィスト。
物書きであり、活動家である。
「まえがき」で著者は、こう言う。
「ものごとに真の名前をつけることは、どんな蛮行や腐敗が
あるのか —— または、何が重要で可能であるのか ―― を、
さらけ出すことである。そして、ストーリーや名前を変え、
新しい名前や言葉やフレーズを考案して普及させることは、
世界を変える作業の鍵となる。解放のプロジェクトには、
新しい言葉を作り出すか、それまで知られていなかった言葉
をもっとよく使われるようにすることが含まれている」(2P)
たとえば、「ジェンダー」という言葉も、
”真の名をつけること”の賜物であり、
縛り付けられていたものの正体がわかり、
ストーリーが生まれ、世界を変える力になる。
「真の名前をつけることによる変化」の例は他にも山ほどあるだろう。
セクシャル・ハラスメントしかり、
賃金不払い労働しかり(サービス残業と呼ばないようにしましょう)。
私は以前、『資本論』の第3篇について書いた文章のなかで、
以下のように書いたことがある。
“『資本論』ではマルクスが「~と名づける」として新しい概念
規定がたびたび登場しますが、この6章・7章でも、「不変資本」
「可変資本」「必要労働時間」「剰余労働時間」のように、マル
クスによってはじめて定義づけられた資本主義理解の重要な概念
が登場してきます。マルクスがいかに前人未到の領域で理論を
展開し概念をつくりだしていったのかが実感されます“
それを、真の名で呼ぶこと、新しい概念を生み出すことは、
社会科学の分野でも重要な意味をもつ。
自分や自分のまわりの世界に対する認識が変わると、
生き方も変わるからである。
「学習は、その知識、概念が持っている意味や価値を丁寧に
解明し、既習の知識や認識の体系に対する揺さぶりや組み替え
をもたらしつつ、まさにそのネットワークの組み替えをとも
なって進むとき、すなわち認識が組み替わるとか、いままでの
考えが変わるとか、わからなかったものが見えるようになるとか、
自分の感性や感情あるいは価値観が組み替えられるなどの内的な
構造の変化、主体の組み替えをともなって進むとき、印象的かつ
感動的なものとして実現される」
(佐貫浩『学力と新自由主義』大月書店、2009年)
本書では、
最近のアメリカを論じているのだが、
現在の日本にも通じる傾向や考え方が随所に見いだせる。
「Ⅳ」の“可能性”の章は、
私たちの背中を熱く押してくれる言葉が綴られている。
活動家の方には、ぜひ読んでほしい。
希望はかぼそいものだけれど、必ずある。
物語を語る努力をしていきたい。